※遊星のキャラ崩壊注意 いつものように向かいのカフェでブルーアイズマウンテンを飲んでいた。そして、いつものようにクロウが俺に「またこんなもん飲んでんのか!働きやがれ!」と怒鳴ってくる。 そのはずだったのだが。 「ジャック今すぐ来てくれ!」 鬼のような形相ではなく、今にも泣き出しそうなクロウが俺の腕を引っ掴んでくるとは思わなかった。 『クッキー事件』 早く早くと急かされ、ポッポタイムに戻された。俺の至福の時間を邪魔されたのだ。当然それ相応の問題なんだろうな。 「なんだあの乱暴な女は」 大問題だった。 なんだこれは。どういうことなんだ。遊星なのか?目の前で悪人面をして、態度が悪いあの蟹は遊星なのか? 「おいクロウ!どうなっているんだ!?説明しろ!」 「俺だってよく分かんねーよ!」 「ジャ、ジャック!説明なら僕がするから!」 どうやら遊星がおかしくなる前に一緒にいたのはブルーノらしい。ブルーノも相当混乱しているようで、手短に話すと言った。 「遊星、物理で分からないところがあるんだけど」 ポッポタイムを訪れたアキは、簡単な挨拶の後にそう言い、教科書とノートを広げて遊星に教えてもらっていた。遊星にとって物理は得意分野であるため、アキに分かりやすく教え、アキもそれを必死にメモしていた。 それをブルーノは、ホイールオブフォーチュンの手入れをしながら「仲がいいなぁ」と思いながら見ていた。 アキの用事が済み、遊星が自分のDホイールの調整に戻ろうとしたとき、アキが顔を赤らめながら自分が作ったというクッキーを遊星に差し出した。 「俺が貰ってもいいのか?」 「えっ、ええ!ゆっ、遊星に…た、食べてほしくって……」 そう言うアキを見て、これまた可愛いなぁとブルーノは声には出さず思った。あれだけ分かりやすい態度を取っているのに、遊星はアキの気持ちに全く気付かない。遊星は細かいようで鈍感である。 そして、微笑ましいのはそこまでだった。遊星がアキから貰ったクッキーを口に入れた瞬間、ぼんっという爆発音がした。だが、遊星自身に異変はなく、何が合ったのかと遊星の元へ行こうとした瞬間、遊星が手に持っていたクッキーの箱をばんっと音を鳴らしてテーブルに置いて、こう言った。「よくこんなくっそ不味いもんが作れるな、お前」 そう言った遊星の顔は、クールな遊星を知っている者なら誰でも見たくないくらいに歪んでいた。 「もっ、もう怖かったよぉおおおおお!!!」 「五月蠅いそこの青いの!」 「ひいぃっ!」 なるほど。十六夜の殺人クッキーが原因ということは分かった。だが、原因が分かってもどうしようもないし、落ち着けるはずもない。あんな遊星を見たことがないのだから。 「で、十六夜はどうした」 「ア、アキさんは……遊星をビンタして泣きながら帰っちゃった…」 だろうな。だから遊星の頬があんなに赤いのか。今も、殴られたであろう頬をさすりながらぶつぶつと文句垂れているようだ。その顔は相変わらず鬼の形相である。 「クロウはどうしたんだ」 「俺は仕事から帰ってきたらすでにあんな状態でよ……。どうしたんだよって言ったら…うっせぇチビって……。遊星じゃなかったらブラックバード号で引いてやりてぇのに…」 ぎりっと歯ぎしりの音が下から聞こえた。よっぽど身長のことを言われたことが気に障ったらしい。昔から気にしていたから当然か。まだ伸びると思うのだが。 今はそんなことはどうでもいい。とにもかくにも、遊星を元に戻さなければ。このままでは一体どうなる事やら。 「おい遊星」 「ブツブツ……」 こいつ…まだ十六夜の愚痴を一人で言っているのか。こんなにネチネチした遊星を見るとイライラする。態度も悪いこんな男が遊星だと思うと我慢など出来るはずがなかった。 「いい加減にしろ遊星!」 遊星の胸倉を掴み、無理やりこちらへ向かせた。普段無表情な遊星が今はどうだ。目の前の男は不満そうな顔をしている。そんな目で俺を見るんじゃない。お前はもっと綺麗な目をしていただろうが。 ずっと目を合わせていたからか、ふいっと視線を反らされた。だが、なぜか遊星の頬はほんのりと赤くなっている。 「ジャック……そんなに見つめるな…。照れるだろ…」 「……はぁ?」 「だっ、だから。そんなに見るなって言ってんだろ!馬鹿が!」 完全に顔を真っ赤にした遊星は、胸倉を掴む俺の手に手をかけて、離せ離せと言いだした。なんだこれは。なんで遊星はこんなに顔を真っ赤にしているんだ。さっき十六夜やクロウ達に暴言を吐いていた男は何処へ行ったんだ。 ぱっと手を離すと、遊星は名残惜しそうに俺の手に触れていた手を彷徨わせた。 「……なんだ、名残惜しいのか」 「はぁっ!?そ、そんなわけないだろ!」 「じゃあこの手はなんだ。なぜ俺の手を掴もうとしている」 「かっ……!勝手な妄想をするな!俺は別にお前に触れたいだとか、そんなこと思ってない!」 「ほう。お前は俺に触れたいのか」 「あっ…!」 これほどまでの優越感を感じたことがあるだろうか。いつもの遊星はたまに甘えてくることがあるが、それも片手で数えられるほどだ。自分の失言に動揺して、俺の手を握りながら顔を真っ赤にしている遊星を見てにやにやしていると、その顔を遊星に見られてしまった。 「なっ!何にやついてるんだ!この変態!」 そう叫ぶと、遊星は俺からばっと離れて二階の自室へ走り去ってしまった。 ずっと後ろにいたクロウとブルーノに目を向けると、苦笑いをされた。どういうことだ。 「あんな遊星見たくなかったぜ……」 「僕も……元に戻らなかったらどうしよう……」 「俺は楽しかったぞ」 「お前だけはな!」 一晩経つと遊星は元に戻っていたが、しばらく経ってから最近十六夜に避けられている気がすると言われた。 そういえば十六夜は何を入れたらあんなものが出来たんだ。科学者にでもなる気かあいつは。 12/12/03 main top |