俺と双子の妹の遊星は、はっきり言って似ていない。 目の色も、髪色も、髪型も、声も全然似ていない。 それでも俺達兄妹は仲が良かった。周りは、どちらかが母さんの不倫相手の子だとか言っていたが、俺達家族はそんな陰口など気にしなかった。 でも小学生の時、遊星がイジメにあった。仕事詰めな父親の姿を知っている者が少ないため、父親似の遊星が不倫相手の子供ではないかと誰かが言い出したのだ。 でも遊星は負けなかった。どんなに気持ち悪がられようと、遊星は泣かなかったし怒りもしなかった。ただいつものように、物静かに本を読んでいた。 その姿を見ることしか出来ない俺は、大切な妹を守れない弱い兄であると自分を攻めた。 「ごめんな遊星…俺、お前を守ってやれなくって…」 「……十代、俺は何も気にしていない。十代は俺と遊んでくれればそれでいい」 その時俺は決めた。もう絶対遊星をイジメに会わさせないって。中学では兄妹であることを隠し、名字が一緒だと言われたら、偶然だなと言った。 それは高校にも続いた。頭の悪い俺が遊星と同じ学校に入るには指定校推薦しか方法がなかった。同じ学校なら何があっても遊星を守れるという考えからの選択だ。 いつしか俺は遊星に依存するようになってしまっていた。大事なたった一人の妹。妹を守れるのは俺だけだと。そして、側にいる目的が遊星に寄ってくる男を徹底的に潰すことになっていた。 「……えっ?アテムさん?」 「ああ、やっぱり十代の家か」 アテムさんはさらりとそう言ったが、俺は何故アテムさんがここにいるのか分からない。遊びに誘ったことは何度かあるが、今日は呼んでいない。 「何用ですか?あ、借りてるゲームならまだ攻略出来てませんけど」 「いや、君の妹に用があってね」 その一言に、俺は血の気が引いた。何故知っている。誰にも言っていないのに。仲の良い友達にすら隠してきていたことを何故知っている。 でもアテムさんに限って、遊星に危害を加えたりなどしないだろうとは思っている。思っているが、一体遊星と何の関係が。 「いらっしゃい、アテム先輩」 固まっている俺の横を、遊星がするりと抜けてアテムさんに並んだ。呆気に取られている俺を見て、アテムさんは怪訝な顔をした。 「遊星…もしかして十代に言っていないのか?」 「……」 「そうか。……十代。俺は、今遊星と付き合っている」 アテムさんの衝撃告白に、頭を強く打たれた気がした。アテムさんは憧れの先輩であるし、信頼もできる人だ。でもいくら尊敬している先輩と言えども、妹を渡したくない。酷い独占欲が口から出そうになるが、相反する思いが自分の中で戦っている。 結果、俺は考えるのを止めたいという現実逃避に走り、ぶっ倒れた。 まず、寝過ぎたようなダルさが体を襲い、頭がズキズキ痛んだ。 「起きたか」 眠気に負けそうになっている状態をアテムさんに止められた。その声によって、今朝の出来事を思い出してしまった。 「十代、すまなかった。君がどんな思いをするか分かっていながら、急に言ってしまって」 「……」 「俺も、俺が一番知っている遊戯に恋人が出来たなんて急に言われたら、嫉妬してしまう」 「アテムさん……」 寝起きということもあってか、酷く通らない声を出してしまった。これは寝起きだからというだけではない。あくまで冷静に話そうと必死なのだ。 「俺はね、遊星が好きなんです。大好きなんです。ずっと昔から、大切な妹なんです。ずっと俺の側にいてほしい。俺に守らせてほしいんです…」 「……うん」 「でも……アテムさん。貴方のことも好きなんです。憧れなんです。貴方も…大切な人なんです…」 目尻を涙が伝った。 「だからどっちも傷つけたくない…!でも……俺は…っ、俺はどうしたら…」 情けない。アテムさんの前で本音をさらけ出し、醜い感情まで表して。涙まで流して。最悪である。 「そうか……なら十代。君と俺はライバルってワケだ」 「……は?」 その言葉に、勢いよく横になっていた体を起こした。椅子に座るアテムさんはこちらを見て笑っていた。何を言っているのか分からない。 「俺も遊星が好きだ。大切な存在であるし、それに可愛い後輩の妹だ。だが手加減なんかしない。全力で遊星を貰いに行く」 どうしてこの人はこんなに格好いいんだろうか。どうしてこの人はこんなにも優しいのだろうか。 「俺の妹はそんな簡単に渡しませんよ、アテムさん」 にっと笑って拳をつき出すと、アテムさんも微笑みながら拳をコツンと合わせてきた。 この後、ドアの向こうで一部始終を聞いていた遊星に、いい加減妹離れしろと言われて、アテムさんに泣きついた。 12/11/22 美佳さんから2000キリリクで「十代と遊星が兄妹設定。遊星の彼氏がアテム」でした。 書いた後に頂いたメールを読み返して、よく見たら「彼氏が出来た話」ということに気づきましたが……すいませんでした。 いつの間にかカウンターが3000越えてしまい、かなりお待たせしてしまったと反省しています。 main top |