※学パロ

「九十九ならいないけど」

 クラスメイトのその言葉にカイトは驚くことも戸惑うこともなく、慣れたようにそっけない返事をした。
 時刻は夕方。授業を終えた生徒がわらわらと下駄箱に向かい下校していく。部活動に所属している生徒はユニフォームを纏ってトレーニングに励んだり、自身の技術を磨く為に熱心に芸術に取り組んでいる。
 そんな生徒の流れに逆らい、カイトは校舎の出入り口とは真逆の方向へ足を進めた。階段を下りずに上り、最上階の使われていない教室へ入る。

「帰るぞ、遊馬」

 カイトは教室の入り口に立ってそう言った。だが、教室の中には誰もいないし、誰かが出てくるような気配すらない。
 しびれを切らしたカイトは丁寧に教室のドアを閉めると、一直線に教卓へ向かい、教卓の下を覗き込んだ。

「やっぱりここか」
「……カイト」

 教卓の下で、遊馬は膝を抱えて縮こまっていた。じっと下からカイトを見るその目は、真っ赤に腫れている。すんっと鼻を鳴らすと、遊馬はカイトから目を反らして教卓の脚をじっと見つめた。

「今日はどうした。また失敗したか?」
「カイトってさ、モテるよな」
「……は?」

 遊馬の口から恋愛関係の話題が出ると思っていなかったカイトは口が塞がらなかった。たしかにカイトは女子生徒に人気がある。だが、誰とも付き合おうとはしない。カイトには弟のハルトと、好意を寄せている遊馬さえいれば何もいらないのだ。
 意中の相手からそんな話をされ、カイトは戸惑っていた。遊馬に好きな女の子が出来たのではないかと。自分ではない相手と仲良さげにしてる姿など見たくない。その姿を想像して、カイトは息が詰まる思いをした。

「クラスの子がさ、言ってたんだよ。カイトはカッコいいって」
「……」
「それで、なんか……もしカイトが女の子と付き合いだしたら、俺の知らないカイトがいるって思って…。そうしたら、なんか胸がきゅーって苦しくなったんだ」

 どこかおかしいのかな俺、と続ける遊馬の言葉は、もうカイトには届いていなかった。

(どんな殺し文句だ。この馬鹿!)



12/11/21
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