遊星が風邪を引いた。徹夜続きだったため、溜まりに溜まった疲労が……というわけではなく、単純に昨日の雨に降られただけだった。
 修理の仕事の場合、遊星はいつもDホイールを使って移動している。今までは運良く雨を回避して走行出来ていたのだが、昨日はどしゃ降りの中を走行しなければならなかったのだ。

「よ、おっちゃん」
「おお、いらっしゃい。あれ?ニューキングは一緒じゃないのかい?」
「遊星のやつ風邪引いたんだよ。だから風邪に効きそうなのねぇかな」

 十代がそう言うと、店主は慣れた手つきで素早く商品を紙袋に入れた。それを十代の前に突き出し、空いた片手を差しだして金額を言った。十代は素直にきっちり支払い紙袋を受け取った。

「負けてくれてありがとなーおっちゃん」

 その言葉に、店主は目を丸くした。暗算では金額を言い当てられないような量の品物を抱えた十代の背中から視線を外せなかった。
 当の本人はそんなことも知らず、恋人のためにと足早で路地を駆けた。





「十代さんが一人で?」

 風邪を引いている遊星は、ベッドで毛布にくるまりながら驚愕した。
 驚きを顔に出した遊星を見ずに、クロウはすっかり温くなったタオルを再び冷水に浸しながら言う。

「お前にしてやれることはないかって。十代、かなりお前のこと心配してたぜ」

 その言葉に、遊星の頭は更に痛んだ。

「何もなければいいが……」





 心配されるべき病人に心配されている十代はというと、厄介事に巻き込まれていた。

「君、いつもあの不動遊星と一緒にいるやつだよなぁ?」
「今日は一緒じゃないのか?」

 目の前には三人の男。背中には壁。にたにたと嫌らしく笑う三人に、十代は冷たい視線を浴びせていた。十代は病人の遊星の元へ急がなければならないのにと、苛々していた。
 そこをどけと言おうと口を開いたとき、一人の男の言葉に遮られた。

「こんな美人を放っておくなんて最低な野郎なんだな!」
「……おい」

 その言葉に、十代は完全に緒が切れた。オレンジと緑の目を光らせ、十代はデュエルディスクを装着して言った。

「デュエルしろよ。三人同時にかかってきな」

 遊星のことを悪く言ったことを後悔させてやると呟くと、十代は怪しい笑みを浮かべた。





「ただいまー!」
「十代ーっ!お前何処行ってたんだよ!」
「あははー悪ィ悪ィ」
「いいから早く来い!遊星を止めてくれ!」

 十代は荷物を落としそうになりながらも、走ってクロウについていった。階段を登り始めた辺りで、上から叫び声が聞こえた。

「離せジャック!こんなに遅いなんて何かあったんだ…!」
「馬鹿かお前は!病人だと自覚しろ!」
「……何してんの?」

 十代はベッドの上で格闘している二人を見て呆気に取られていた。入り口に佇む十代を見た遊星は、安心したのか必死になっていた形相を解いて、十代に笑顔を向けた。

「十代さん…!」
「こらー。病人は寝てろ馬鹿野郎ー」
「帰りが遅かったですけれど…何かあったんですか?」
「んー?何にもないよー。俺ってそんなに頼りない?」

 そんなことないと慌てて訂正する遊星を見て、ユベルは十代に君は猫被りだねと独り言のように言った。



12/11/18

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