ごく平凡で当たり前のこの毎日が、実は誰かが何度も破滅させてしまって、失敗して、やり直す為に繰り返しているとしても、その人以外は誰もそれに気づかない。気づけない。
 同じ迷路にはまってさ迷い頑張るが、誰にも気づかれないその人の努力は報われるのだろうか。

「…って話をされたら、シャークはどうする?」

 真面目な顔でそう語る遊馬とは正反対に、凌牙はまた意味の分からないことを言い出したと顔をしかめた。

「……そんな非科学的なことを言われてもな…」
「残酷だと思わねぇ?」
「そう言われたらそうだが」

 代々時間とは常に一線を走り、枝分かれしているわけがないだろうというのが凌牙の考えであった。だから、そんな自分の思想を覆すような話に正直頭がついていかなかった。

「まぁ、もしそれを語るやつがその話の人物なら、俺はどうしてそこまで頑張るんだって言うかな」
「……もし、」
「ん?」
「もし、そいつがシャークを助ける為に何度も繰り返していたら…?」

 遊馬は顔を伏せてそう言った。表情は伺えないものの、その声は震えていた。そこに触れてしまえば、せっかく遊馬がかけたストッパーを外してしまうかもしれない。そう思った凌牙は、遊馬の問いにだけ答えた。

「そいつが見てきた今までの俺がどんなのか知らないが、要は黙って守られてりゃあいいんだろ?」
「……」
「俺は、お前に預けるぜ」

 凌牙は遊馬の頭に手を乗せた。正直守られてばかりでは情けないと思ったが、きっと自分には理解できないことを抱えているのだろうと思っての行動だ。

「シャーク、この流れで言うのもどうかと思うけど…」
「ん?」
「ごめん、これアニメの話…」
「はぁっ!?」

 それを聞いた途端、凌牙は遊馬の頭に置いていた手を退けた。真面目に考えていたことが実はアニメの話でしたなんて、凌牙は自分がその非科学的な設定に酔っていた痛々しいやつのように思えた。
 顔から火が出るほど恥ずかしく、怒鳴る気にもならなかった。

「でもさ!シャークは俺を信じてくれてるってことだよな!」

 満面の笑みでそう言われたものだから、凌牙はそんな可愛い自分の恋人を強く抱き締めた。
 幸せに抱かれながら、遊馬は胸の鍵を強く握り締めた。




12/11/12
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