※ED後


 仲間がそれぞれの道へ進んでからというもの、このガレージは静かになってしまった。
 昔はゾラに怒られていたくらい騒がしかったのだが、流石にこの広いガレージに遊星一人ではそんなこともなくなった。むしろ、たまに遊星が生きているか確認しにくるくらいだ。

「明日は休み、か」

 最近働きすぎです。休んでください。と言われ、急に休暇をもらうことになった。しかし、休みといっても何をすればいいのか分からないでいた。
 最後にライディングデュエルをしたのはいつだっただろうかと思いながら、Dホイールのグリップをひねった。





「なんだ遊星」
「久しぶりだな」
「珍しいな。お前から連絡なんて。どうかしたのか」
「いや、どうしているかな。と思っただけさ」
「ふん。どうもこうも、手ごたえのないデュエリストだらけだ」
「ふっ…相変わらずだな」

 電話越しのジャックは相変わらずの様子だった。いつも通りの態度で、いつも通りの声。
 何も変わっていない様子を見て、自分の知っているジャックのままでいることに、遊星は安心と不安を感じた。ジャックは一人でも寂しくないのだろうかと。

「ジャック、寂しくはないか?」
「……お前は相変わらず自己犠牲主義なんだな。寂しいのか」
「違う、そうじゃない」
「目を反らすな。お前の癖はとうの昔に見破っている」
「……寂しいさ。お前に何年会ってない…?最後に抱きしめてくれたのはいつだ…」

 シートにポタリと涙が溢れた。一度溢れた涙は止まらず、頬を伝ってシートを濡らしてゆく。

「泣くな」
「……すまない。だが…」
「もうすぐ着く」
「えっ…?」

 モニターの中のジャックが消えたと同時に、懐かしい走行音が聞こえてきた。木々に囲まれた道路から飛び出してきた白い独特な形のDホイールは、少し離れた場所に急停止した。
 遊星は近づいてきた人物を目の前に、呆然としていた。

「泣き止んだか、遊星」
「ジャッ……ク…」
「なんだその顔は!せっかく俺が会いに来てやっ……」

 ジャックの声は、唇に触れた遊星の口へ消えていった。触れるだけのキスを、ジャックはまるでファーストキスを奪われたかのように硬直して受け取った。
 長いキスの後、遊星はジャックを強く強く抱き締めた。未だ硬直しているジャックに、遊星は下から見上げて言う。

「ジャック、背中が寂しい」

 遊星の突然の甘え方に、ジャックは戸惑いながら遊星を抱き締めた。
 ジャックは、こんな可愛いことをしてくるなら、また日を開けて会いに来れば良いかと思ったが、今度はジャックが耐えきれずに自ら会いに行くことになるとはこの時予想すらしていなかった。



12/10/30

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