十代先輩は俺の憧れであり、片思いの相手でもあった。

「俺もずっと好きだった…」

 その片想いが今、この茂みの中で粉々に砕けてしまった。





「へぇ、カイザーとねぇ」
「なんで教えてくれなかったんですか」
「そもそも何故お前は嫌いな俺のところに来るんだ」
「ええ、ヨハン先輩のことは嫌いです。憎たらしいですが、十代さんの一番の親友は紛れもなく貴方ですから、十代さんについては憎たらしいですが一番知っていると思いますので。憎たらしいですが」
「何回も言うな」

 俺の性格からして、ヨハン先輩のせいには出来なかった。決してヨハン先輩のせいではない。勝手に自分が片想いをして、自然と砕けただけだ。

「はぁ…」
「幸せ逃げるぞ」
「喋らないで下さい」

 うんにゃ。と、返事ではない返事をすると、ヨハン先輩は手に持っていたデュエル雑誌へと目を向けた。

 亮先輩に告白されてた十代先輩を思い出して、机に頭をぶつけた。普段は格好良くて、キラキラしてる十代先輩があんなに顔を真っ赤にしているところは初めて見た。
 亮先輩だから見せるあの可愛らしい笑顔が、頭に焼き付いて離れない。

「十代先輩は……」
「ん?」
「十代先輩は、いつから亮先輩のことを?」
「さぁな。俺も今聞いてビックリしてたとこだもん」
「え?ヨハン先輩も知らなかったんですか?」
「そりゃあ、親友と言えども知らないこともあるだろ。十代から恋のこの字も聞いたことなかった」
「……親友の知らない事を知りたいとは思わないんですか?」
「うーん……人を100%分かられないだろ。俺は十代の99%を知ってる。残りの1%、十代の内で収めておきたい事は知らなくていいんだ」

 いつもの先輩からは想像もつかない台詞ですね。と言うと、失礼なやつだな。と、軽く頭にチョップを受けた。

「……そういや、俺は遊星のことを知りたいな」

 今まで読んでいた雑誌をパタリと閉じて、ヨハン先輩は俺の目を見つめてきた。
 ヨハン先輩の真面目な目は嫌いだ。じっと見つめられていると、いつか考えていることまで見透かされてしまいそうだと思ってしまう。
 ぱっと顔を背けると、顔を両手で挟まれ、無理矢理目を合わさせられた。

「俺は遊星に興味がある。俺は気づいたらお前のことを考えてる。俺はお前の何処に惹かれているのか、お前を知ることで知りたいんだ」
「なっ……!ひ、惹かれてるって…!」
「ん?俺そんなこと言ったか?言ったか。……ああ!なーんだ、簡単じゃないか!」

 ヨハン先輩は顔にあてていた手を離し、今度は俺の両手を包み込んだ。

「俺、遊星が好きなんだな!」

 真面目になったかと思えば、またこの表裏のない笑顔。やっぱりこの人は苦手だ。何を考えているか分からない。
 握られている手から、ヨハン先輩の鼓動を感じた気がした。


12/10/18

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