※アリ→小前提


「……おい、なんだよこの紙は」
「俺が知るかよ。お前に……ベクターに渡せって言われたんだ」
「ふーん。中は?」
「さあ」
「んー何々?『アリトは小鳥ちゃんにひたすらアプローチしてましたが、効果がなかったように思えます。どっちかと言えばベクターのほうがアプローチの術に長けているんじゃないでしょうか。是非アリトくんに伝授してあげてください。』なんだこれ。俺はこんなお遊びに付き合う気なんてねーよ」
「でも暇だろ。だって俺もまだ回復してないし。お前もここから動けないし」
「それもそうだな」
「ちょうどいい。暇つぶしになるんじゃないか?」
「……ん?おいアリト。お前そこから出られないのにこの紙、誰から渡されたんだ?」
「そう言われればそうだな。実は俺もよく覚えてない」
「使えねぇやつだな。まあ誰だっていいけどよ。えーっと?なんだったか」
「アプローチの術」
「あーそうそう。んー……ああ、やっぱりアレだな。最初はインパクトが大事だ」
「おう。で、具体的には」
「階段の下にいるターゲットめがけて、ダイレクトアタックをくらわす。そりゃもう派手にやっちまっていい。そっちのほうがインパクトがでかいからな」
「それって怪我しないか?」
「そんなちっせえこと気にすんな。後はそうだな……。ひたすら相手の為に尽くすことだな。ドジなフリすると楽だぜ?がむしゃらに突っ走って失敗すりゃあいいんだからな」
「失敗して大丈夫なのか」
「ああ、後で『実はドジなキャラは嘘で、クールなキャラの方が本性だった』ってさらにキャラを被せればいいからよ。ドジなキャラを演じてた理由は、適当にそれっぽい理由をつけときゃいい。秘密の機関とかな。誰にも言えねぇ秘密をターゲットにだけバラしたって教えときゃあ、『自分はコイツの特別なんだ』って思わせることができて、さらに信頼性がぐっと高まる」
「ああ!それなら分かるぜ!俺も小鳥さんに似たようなアタックをしたことがある!」
「あっそう。なんだっけ?お前お得意の……テコンドーパンチ?」
「カウンターパンチな。なんでそんなマイナーな単語の方を知ってるんだ」
「あーそうそう、カウンターカウンター。まあそんなもんだ。で、ここが一番大事だ」
「さらに先があるのか」
「当たり前だろ。信頼性をぐっと高めたところでがくんと落とす!あんときのアイツの顔と言ったら最高だったぜぇ!思い出すだけで腹が痛くなる……と言いたいところだが、今じゃあ思い出すだけでイライラするぜ」
「そうか……!信頼性が最高潮になった時に最大のアプローチ…!こういうことだったのか!」
「お前、俺の話の後半絶対聞いてないだろ」
「ベクター!お前ってすげえ奴だな!顔芸しか出来ないただのゲス野郎だと思ってたぜ!」
「ああ!?喧嘩売ってんのかてめぇ殺すぞ!」


後日
「ベクタァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「何か用かアリト」
「お前に言われた通り、階段の上から小鳥さんめがけてダイレクトアタックしたぜ!」
「あーそう言えばそんな話してたっけか」
「小鳥さん……デュエリストじゃねーからそもそもデュエルすらできなかった……」
「は?ダイレクトアタックってそういう意味じゃ……」
「後よく考えたら、俺小鳥さんにバリアンだってこと知られてた……」
「なんか問題あるのかよ」
「そりゃそうだろ!人間とバリアン。そもそも生きてる世界が違うだろ。恋愛にはとてつもなくでかい壁だぜ……!」
「恋愛?いかにして早く相手に嘘を信用させて絶望に突き落とすって話じゃなかったのか?」
「え?」
「え?」



13/04/17

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