難攻不落の王様
※夢主の発言が若干やばいです。お気をつけ下さい。


今まで生きてきて、本当に夢中になるほど好きな人が出来たことなんて一度もなかった。
そんな私の友人は逆に好きな人がいて、その片思いの心情をよく話してくれたのを覚えている。

なんでも、好きな人の事を想っただけで胸がドキドキするんだと。
それだけじゃなくて、心臓が締め付けられるような感覚に陥り、呼吸が少し苦しくなったりするんだとか。

いやそれ怖くね?って思った。凄く。
他の病気なのでは……?って呟いたらはたかれて彼女は言った。
恋も病なのだと。なるほど理解。恋とは悪い菌なのか。

一人、納得した。

しかしその菌のおかげでなのか、友人はとてもキラキラしていたし心なしか、見違えるかのように可愛くなっていった。いや元々顔は端正な子なんだけどオーラ的な?
いやしかし、それでも恋愛ってよくわかんないし私にはきっと必要ないや。


「って思っててまじスンマセンした」


「はあ?ほんとなんなの君。意味わかんないんだけど。てか僕に言わないでよ、迷惑なんで自分の席に戻ってくんない?」


同じクラスの月島が今日は音楽ではなく、本を読んでいた手を止めて顔をあげると心の底から嫌そうな目で私をみた。いつも以上に嫌悪を見せているのがひしひしと伝わった。
というか私は自分の席に座ってるじゃないか。
私と君はお隣さんなんだよ。


「月島さ、影山君と同じ部活なんでしょ?」


「君、僕の言葉聞いてた?その耳はお飾りか何かですかー?てかヤダけど。僕から王様に話し掛けるなんて絶対ヤダ。しかも王様に片思いしてるクラスメイトのためとか、なおさら死んでもヤダね。あー、やだやだ」


「何回イヤって言うのさ!ねえお願いだよ、もう君が最後の砦なんだ、なんせ影山君は、彼は……!」


悔しげにグッと、握りこぶしを作り、歯を噛み締めると山口君があっ、何かを見付けたらしく、声を漏らした。
次に月島がゲェっ、と声をあげる。とても嫌そうな声だ。
月島がそんな声を出すということはつまり……!

光の速さで彼らの視線を辿ると、思った通り廊下にぐんぐんヨーグルを飲みながら歩く影山君がいた。


「かっこいいなあ……」


サラサラと靡く黒髪は、窓から漏れる光に当たってとても艶やかだ。撫でたい。

ちょっと怖い顔だけど、端正で凛々しい横顔は男らしくもあり、まだ高校生という幼さが拭えない。だがそこがいい。寧ろそこがいい。

涼やかで少しつり上がった深い紺色の双眸は深海を思わせ、静かに揺らめいている。そんな瞳で是非とも見つめられたい。そんでキャーって赤面してみたい。

肌はあまり焼けておらず、かといって白すぎない、いい具合の肌色は女の私より綺麗ではなかろうかと思う。
そこは女子としてはとても羨ましい。

中身だってとてもストイックだ。
好きなものに対して貪欲で、努力を怠らない、それどころか怠ることを知らないで突き進むその姿は女子のハートを鷲掴みにして離さない。

そしてなにより姿勢がいいし、あのスラッとした長身に加えバレーボールで鍛えたであろう立派な筋肉と、丁寧にケアされている綺麗ですらりとした繊細な指と手だ。
もう一度言おう、指と手だ「うるさい」


「敢えて言わなくても分かるよね?気持ち悪いよ、君。本音駄々漏れなんですケド」


私の熱い熱い影山君の魅力語りをしただけだと言うのにこの謂われよう。
月島の目は、表情は、ビックリするぐらい冷めていて且つドン引きを露にしていた。
先程から隣にいる山口君は苦笑いだが、何故か憐憫にも似た目でこちらをみている。
って、ああ、影山君が見えなくなってしまった……。


「ふん、なんとでも言うがいい」


影山君居なくなっちゃったし、開き直って一言。
しかし、これで月島という最後の砦を無くしてしまった(ちなみに山口君にも断られました)。
今後の展開などに発展は望めないかもしれない。
そう、最初の方でも言ったが、彼は難攻不落の王様なのだ。
いっくら好意を伝えても彼は全く気が付かない。私の好意、それがどういう意味なのかも恐らくどころか全く分かってないと思う。
つまり、かなーりの鈍感さんなのだ。
要は好意を伝えても落ちないから難攻不落じゃない、恐ろしいほどの鈍感で難攻不落なわけだ。


「あのー……、みょうじさん」


そろそろっと、遠慮がちに山口君が口を開いた。


「なに?」


「確かに影山は凄く鈍感だと思う。他の女子からアピールされてたけど全く気が付いてなかったし。他の女子よりは劣るけど一応みょうじさんは影山にそれなりのアピールというか、好意は見せてるし伝えてる。だけど、あの、みょうじさんの好意の伝え方というか、アピールは分かりにくいっていうか俺に好意持ってるんだー!って、思われにくいんだよね。特に影山とか超鈍感の部類には」


「山口に同意。ま、影山バレー馬鹿だし確かに超鈍感だから難攻不落っちゃ難攻不落だけど君も君だよね。もう直球に告白したらいいんじゃない?見てて面倒なんだよ君って。鬱陶しいし玉砕でもしれくれれば少しは静かになるデショ」


グサグサグサっと刺さる言葉の雨。
特に月島、最後のやつな。覚えてろよ!

……しかし彼らの言ってることは尤もで、言い返せない。
でも告白とか恥ずかしい。人をここまで好きになるなんて思ってもみなかったし、元々積極的ではない私はどうアピールしたらいいか分からない。もう、本当にド直球に愛を叫ぶしか……!

なんて思っている内に、時計をみやれば昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いてしまう時刻に。

こうなれば半ば自棄だ。
今日、ド直球に難攻不落の城、もとい王様こと影山飛雄を攻め落としに行こう。

いざ、出陣。

珍しくゆっくりのんびり歩いてたから多分まだ教室には入ってないはず。
そう、青春は待ってなどくれないのだ。

そう思ったら、いつの間にか私は教室から廊下へと踏み出していた。


難攻不落の王様


「影山君!」


「?あ、うっす」


「う、うっす!じゃなくて、あの、あ、き、ききき」


「ききき?」


「今日も絶好のバレー日和だね!」


「ああ」


「(ってそうじゃないだろ自分!あああでも影山君ちょっと笑った嬉しいいい)」


「前から思ってたんすけど、みょうじさんてバレー興味あんのか?だったら今日部活あるし、見に来ないっすか。澤村さんにはちゃんと俺から伝えとく」


「そうだよね、バレーに興味あって……え?」


えっ!?

間抜けな私の声が廊下に響く。
いままで攻め落とす事が困難だった、城の主に入り込む希望が見えた気がした。

[戻る]
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -