発展、その先
夏休み、熱気渦巻く外を自転車で駆け抜ける。
現在の時刻は多分お昼前。
なるべく木陰がある場所を走るが劈く蝉の鳴き声のうるさいこと。
茹だるような暑さと苛立ちが混ざり吐き気すら催した。
「なんでクーラー壊れるわけ!?何様俺様クーラー様ってか?くっそ、暑い……」
ひとりごちた。
実家の部屋全てのクーラーが反抗期を迎えたのだ。
お陰で部屋が灼熱地獄ようになるし勉強に集中できないしで思わず家を飛び出してしまった訳で。
まあぶっちゃけクーラーが効いてようが効いてまいが、勉強するつもりなかったんだけどね。
扇風機でもいいけど押し入れから出すことすら今はしたくない。
学校の寮でもいいけど遠いからめんどいし。
取り敢えず近場のファミレスに避難しよう、そうしよう。
汗が伝う頬を拭うと、私は自転車のペダルを深く漕いだ。
しかし1人でも構わないがせっかくだし誰か道連れにするか。
誰にしようか?
「あ、そうだ、福井にしよ」
明日は部活ねえよと昨日メールのやりとりで言っていたのを思い出した。
よしよし、さっそく電話しよう。
福井は何だかんだいい奴だから文句を言いつつも来てくれる筈だ。
「あ、もしもし福井ー?」
「おー、珍しいな、みょうじが電話掛けてくるなんてよ」
電話越しから以外そうな声音が伝わってきた。
基本メールとかだからねえ。
「まあねー。福井は今家?」
「おう。どした」
「今からデートしようぜ」
「おう……おう!?おま、はあ?」
「冗談冗談、そんな焦んなってばー。暇してたらファミレスで一緒に過ごさない?てか過ごすよね、有り難う!流石福井君」
「いやまだ何も言ってねえだろ!?ああもう、どこのファミレスだ?」
ガタガタと聞こえる音は恐らく立ち上がり、支度をする音だ。
ついでに溜め息も聞こえた気がするがそのへんはスルーの方向で。
「向かいに花屋さんがあるとこ。まあいつもの場所かな。ほんと、何だかんだ優しいねえ、福井は。モテるわけですよ」
「知ってる。んじゃあ先に向かってろ。着いたらメールすっから」
「はーい」
私の返した言葉を最後に通話は終了した。
約束のファミレスまであと10分くらいで到着かな。
あと10分もかかるのか……。
いや楽園はすぐそこだ、頑張れ私。
踏ん張りながら何も考えずひたすら自転車を走らせると見えてきたファミレス。
ふと、向かいの花屋に視線がいった。
表に飾られた色とりどりの花。
水を浴びたのか、太陽に反射してキラキラと水滴が光っていた。
うはあ、羨ましい、私も水浴びしたい。
是非この火照った全身に冷水をぶっかけていただきたい。
花屋のお姉さんお願いします。
……いやいやいや、何を言ってるんだ私は。
暑さでとうとう脳が茹で上がってしまったのだろうか。
にしても綺麗に咲いてんなあ。
じっと眺めているとある花を思い出す。
毎年の夏、祖父母の家に咲いているサギソウの花だ。
前におばあちゃんが教えてくれたサギソウの花言葉。
「確か発展、だったかな」
そういえば友人に、福井との関係を聞かれたなんてこともあったな。
小学校の頃からの付き合いで仲がいいとは答えたけど。
今まで深く考えた事がなかったが、端から見たらそういう関係にみえてしまうのかな。
福井と彼氏彼女か。ちょっと違和感あるな。
想像しながら駐輪場に自転車を停めてファミレスへ入店する。
しかし、そんな想像はいらっしゃいませと店員の爽やかな声に消された。
席に案内され、適当に暇を潰していると福井からのメールが届く。
返信をして自分の座っている席を教えるとすぐに姿をみせる彼。
途端に先程の想像を思い出してしまい、思わず照れてしまう。
いやなに意識してんの私。
今までそんな事想像しなかったってだけじゃん?
そりゃ福井はイケメンだし声もかっこいいしなんだかんだ優しいし、大好きだ。
大好きだ?
大好きだ!?
え、いつから大好きって思うようになったんだよ、私。
無意識に好きになってたって事?
「よおってなに難しい顔してんだよ、みょうじ。大丈夫か?体調悪いなら無理すんじゃねえよ」
「いや、大丈夫デス」
「ならいいけどよ。悪くなったらすぐ言えよ」
「うん、ありがと。ねえ福井」
「ん?」
「サギソウの花言葉って知ってる?」
「いや、知らねえけど……。んだよ、いきなり」
「発展っていうらしいですよ。い、色々と想像つくよね、発展」
もにょもにょ呟くように福井にいえば、彼は少し考える素振りをみせるとようやっと意味がわかったらしい。
少し頬を紅潮させるとお互い無言になってしまった。
そんな沈黙を最初に破ったのは福井で。
それこそ、私に負けないくらい小さな声でみょうじと呟いた。
「越えてみっか?その、ちゃんとそういう関係にだな……」
「そ、そうだね」
発展、その先
「す、すす、す」
「……」
「うるせえ!まず最初はこ、告白からしなきゃ始まらねえだろうが」
「私何も言ってないよ!」
隣の席に座ってるカップルさんの暖かい視線が恥ずかしかったです。
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