13
「どの扉も鍵が掛かってて入れねえとか何だよここは」


「扉も蹴破れねえし、腹立つな」


げんなりと、そして苛立ったように青峰君と火神君。
早く仲間を、彼女達を見付けたいという焦りが苛立ちを余計増大させているんだろう。
やはり鍵を見付けなければいけないと駄目なのか。
どのドアノブにもちゃんと鍵穴がある。


「つかここ廊下しかねえのに誰1人見付からねえとかどうなってんだよ」


火神君がそう、ごちた瞬間だった。
みしみしと木が軋む音が間近で聞こえた。
ピタリと動きの止まる私達。
あの時のような不愉快で気味悪い声は聞こえない。

もしかしてまた別の?
しかも間近で。
どこにいるんだろうか。
緊張の面持ちでふと上を見上げ、私につられて2人も上を見上げる。

思わず目を見開いた。

ぎょろりと動く虚ろな瞳。
青白い肌。
大きく裂けている口は笑っていて。
鋭い歯。
ボサボサで艶の抜けた髪。
それは近距離で私達の頭上にぶら下がっていた。
やがて私に向かって手を伸ばす。

まずい、逃げなければ。

響く警鐘。
逃げるという判断をしたその時、火神君が私の手首を掴み走り出した。
長い廊下を走る。

走る。
走る。
走る。

後ろを振り向けばそれは薄暗い暗闇にぼんやりいた。
何か、あれは、手?
振り上げるような仕草。

ちょっと待て。
もしかしてこちらに向かって何かを投げようとしてないか?


「ふ、2人共、あれ、何か投げようと、し……してるみたい!」


足の速い彼らに息が絶え絶えな私は必死で叫び、伝える。
青峰君の舌打ちが聞こえたと同時だった。
私達の視界に見えた階段。


「上るぞ!」


無我夢中で階段を上る。
やがて階段の先、平たい床が顔を覗かせ私達は一気に上りきる。


「っ……」


乱れる呼吸。足を止めると、喉が締め付けられてるかのような苦しさが。
屈みながら落ち着いて深く、深呼吸をする。
息がとても苦しく、鉄のような味が口に広がった。


「、はっ、し、死ぬ……」


「大丈夫か?お前体力ねえな」


ふう、と余裕そうに息を吐く火神君と青峰君。
化け物のようなものに追いかけられた事への疲れはあっても運動への疲れなど素知らぬ様子だ。
そうだよ、この人達現役だった……!


「それより、雰囲気だいぶ変わったな」


火神君の言葉通りだ。
ぐるりと視界を回す。

下は扉だらけだったがこの階はなんというか、家らしさがある。
それに下の階よりはまだ明るい。
変わらず床は汚くて廊下は広いけど。

廊下の右側は扉が幾つかと階段。
左側は襖。
和室なのだろうか。
そして真っ直ぐ続く廊下の先は大きな扉と普通の扉がうっすら見えた。


「……」


「……」


2人は無言だ。
しかし青峰君が「人の声が聞こえる」とぼそり、言った。
それに火神君が同意する。
私全く分からなかったんですけど……。


「ああ。もしかしたらあいつらかも知れねえ!よし、声が聞こえる方に行くぞ」


嬉しそうに声が聞こえる方、真っ直ぐ続く廊下を指差す火神君は歩き出し、私と青峰君はそれに続いた。

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