08
色褪せてしまったカーペットに薄汚れたシングルベッド。
木製の勉強机。
本棚。
床に落ちていたり、勉強机や本棚の上に無作為に置かれた沢山のぬいぐるみ。
どれも原形を留めてはいるものの、やはり傷んでいるのは確かで。
しかし私の目を引いたのはそこではなかった。
勉強机のすぐ近くにレトロな柄のカーテンがかかっている。
それをめくればその先になにがあるのか。
どんな世界が広がっているのだろうか。
「あのカーテンの向こうってどうなってんだろうね」
「お前まさか」
「そのまさか。気になるじゃん?開けてくる」
「お前勇者だな。HP削られても知らねえよ」
「削られるか!」
つっこみながらカーテンの場所まで行く。
開けてくるとは言ったものの、少しの緊張で手汗がじんわり広がるのが分かった。
あと数センチ。
そこでこの先の景色が私の視界に映される。
ぐっと、カーペットのように色褪せたカーテンを掴むと布の感触が伝わった。
よし。
心の中で呟いた一言を合図に、カーテンを開ける。
「へ?」
「は?」
思わず出る間抜けな声。
私の、青峰君の視界を占めるその世界は何もなかった。
いや、何もないというよりはそもそも外の世界というものを映していなかった。
ガラスの窓は靄でもかかっているかのように曇っている。
つまり外の世界が見えない。
いや、もしかしたら存在しないのかもしれない。
だとしたらここは一体なんなのだろう?
「なんか、拍子抜けだな」
青峰君が小さく息を吐いた。
「そうだね。この先ってどうなってんだろ」
言いながら青峰君の方を振り向くと彼の肩が一瞬上下に揺れた。
……それは私の背後に何かがいる、という事だと捉えていいのかな。
「おい、この部屋から一旦出るぞ」
「分かった」
早歩きで青峰君の元へ向かうと私達は再び廊下へと出る。
「……青峰君、なんか見た?」
「おう……」
こちらをチラリと一瞥して、彼は呟くような声で肯定した。ああ、やっぱりか。
「聞いても」
いい?
そう言いかけた時だった。
私達の耳に足音が入る。
「「!!」」
すぐにその足音の聞こえる方に顔を向けた。
長く広い廊下と数多く並ぶ扉の先。
その先は薄暗くぼんやりとしか分からないが多分十字路、だと思う。
いや、足音は左側から聞こえてくるから十字路になっている筈だ。
それか左側に廊下が続いているか。
またあの人形?
いやでもあの時のような不気味な声はしない。
もしかしたら新手?
だとしたらどうする?
幸いなことにどうやら足音は逆に離れていっているようで。
私と青峰君はお互いに顔を見合わせ、頷きあうと足音を立てずに足音の正体をこっそり確かめるべく大股で歩いた。
「……」
「……」
暫くの間流れる静寂と緊張。
少し歩くとやはり十字路になっていたようだ。
真っ直ぐ続く廊下と左右の廊下にも数多くの扉があるのが分かった。
「やっぱ十字路になってたな」
「青峰君にもそう見えてたんだ、良かった。なんかほんと、部屋だけじゃなく無駄に廊下も長いよね」
「あー、だな。どんだけ金持ちだったんだよって話だな」
コソッと会話しながら私達は左側の廊下と来た廊下の角から顔を少しだけ覗かせる。
やはり薄暗く、また少し離れた場所にいるからか、よく見えないが燃えるような真っ赤な髪と青峰君と同じくらいの身長、体格である少年だという事は分かった。
「んであいつがここにいんだよ」
少し不機嫌そうに、だけど気の緩んだ声で言う青峰君。
もしかしなくても知り合いですか。
「知ってる子なんだ?」
「……まあな」
眉間にシワを寄せる青峰君。
仲悪いのかな。
いや、そういう感じは青峰君からしない。
まあ私には関係ないか。
あまり深く聞くのもよくないし。
「とにかくあいつは大丈夫だろ」
「……そっか」
「よし、行くぞ」
会話を交わし、左側の廊下へ行こうとしたのと同時だった。
いきなりその後ろ姿が「誰だ!!」と叫びながらこちらを振り向いたのは。
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