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「俺達にも伝えてない事だと?おい黒子、何故今それを言うのだよ」
緑間君の眉間の皺が先程よりもっと深く刻まれる。
しかし黒子君はそんな緑間君を全く気にしていないようで、話を続けた。
「赤司君に関してですよ」
赤司。
彼の口から出た名前に緑間君達はピクリと反応を示す。
「赤司君と3限終わりの休み時間に廊下で会ったんですがその時、赤司君に昼休みに少し私用があるから先に屋上で昼食を食べててくれと言われまして。それを緑間君達にも伝えて欲しいと頼まれました」
あまり息継ぎをせず伝えていなかった事を伝える黒子君。すごいね。
暫く無言の緑間君が口を開けた。
「そういう事はもっと早く伝えるのだよ、全く」
「あれ、もっと怒られるかと思いました」
「怒られたかったのか?」
「そんな趣味は持ち合わせてません」
即座に突っ込む黒子君。
ちらっと私へ視線を送ったのは何でかな。
私も怒られたいとかそんな趣味持ち合わせてないからね?
「そっかあ、だから赤ちんいなかったんだねー」
「はい。にしても紫原君が赤司君に関して何も言ってこなかったのには正直驚きましたよ」
「んー、聞きたかったけど今聞いたら話がまたごちゃつきそうだったし話が纏まって終わってからにしよっかなって」
鍋からお椀に具材をぽいぽい入れながら喋る紫原君に黄瀬君が続いてあっ、と声を発した。
「って事は赤司っちも俺達みたくなる可能性が高いって事じゃないっスか!」
「きーちゃん、屋上に行こうとする人全てがそうなる可能性だって考えられるよ」
「つか眠い」
おい最後。
青峰君だよね今の眠い発言。
ちらり、彼をみやれば大きな欠伸をしている。
「もう、青峰君てばちゃんと話聞いてたの?」
「おう、聞いてた聞いてた。で、よくわかんねえけどすき焼きの具材についてだっけ?」
「聞いてないじゃない!」
青峰君に全力で突っ込みを入れるさつきちゃんに溜め息を漏らす緑間君。
苦笑いの黄瀬君。
黒子君は表情は変わらないが心なしか目が呆れているように思えた。
紫原君に至ってはこちらよりご飯らしい。
銀時君もいつの間にか、ちゃっかり摘まんでいる。
「んでお前らどうすんの?帰る方法は今んとこねえし、何かまた増えんのか?」
それだよね。その赤司君て子の事もどうなるのか。
「そうですね、取り敢えず時間の流れはどうやらこちらにとって都合はいいんですが帰る方法や留まる場所を考えないとですし。赤司君の件は僕達と同じようにこっちに来てしまうと断言は出来ませんが確率的には高いかと思います」
「え、お前ら海鳴ん家に居候するんじゃねえの?なあ、海鳴」
「うん、そうだね」
銀時君の発言とその発言をあっさり肯定した私に驚く黒子君達。
「待つのだよ、いきなり何を……。そもそも俺はまだ貴方達を信用した訳では」
「とか言ってミドチンちゃっかりご飯食べてたじゃーん。空腹には抗えなかった、的な?」
「う、うるさいのだよ!大体それは料理をしている所をしっかり見てたからでって今はそんな事どうでもいい。俺達全員を居候は無理があるのでは?」
緑間君の言いたい事は分かるぞ。
ただ私は紫原君に帰る方法が見付かるまで家に居ていいよと言った訳で。
紫原君はOKで彼等はダメだなんてそれは流石にね。
紫原君と関わり、そして紫原君や彼等に起こった出来事を知って大変だね頑張れなんて言って知らんぷりするほど私も鬼畜じゃないからね。
「ま、紫原君の事情を知った上で居候してもいいよって言った時点で私達には責任が生じてる訳だしさ」
「いや、でも、」
躊躇いがちにこちらをみる黒子君の瞳には不安と期待が入り交じっている。
「大丈夫、ただとは言ってないから」
「「えっ」」
「えっ?いやいやいや、ちゃんとする事はしてもらうよ。ね、紫原君」
流石にもう満腹になったのか、空になったお碗の上に箸を置いた紫原君は私の言いたい事をしっかり理解していたらしい。
ちょっと、いやかなり怠そうに「ああ……」と呟いた。
「家事手伝いでしょ」
「「えっ」」
驚きの「えっ」ではなく今度は少し気の抜けた「えっ」を発する黒子君達。
うん、文章にすると実に分かりにくい。
「ビビったっス……!てっきり現金の要求かと」
「んな要求するわけないでしょ。つか生々しいな、現金って」
イケメンの口から現金ってなんか、こう、余計生々しく聞こえてしまう。
あ、もしかして私だけ?
「で、赤司の件もそれはそれとして。お前達はどうなのだよ?居候をさせてもらう事について」
私のあまり話とは関係ない思考から話を引き戻す緑間君の声。
ただそれは私達に向けてではなく、黒子君達に向けた言葉だった。
「俺はいいと思うけどな。寧ろ早々に場所が確保出来てよかったじゃねえか」
青峰君がテーブルに肩肘をつき、頬に手を乗っけながら緑間君に言えばさつきちゃんと黒子君も頷き賛成の意を示す。
黄瀬君も少しして「俺も青峰っち達に同意っス!」とこちらを見ながら賛成をした。
「そうか……。分かったのだよ。成田さん達には少しの間、お世話になります。坂田さん、色々と有り難うございました」
「あー、んなの気にすんな」
「よろしくねー」
「よろしくお願いしますね」
ペコリ、小さめに私達に会釈をする緑間君。彼に続いて黒子君達の声が居間に伝わる。
また少し、日常が変わり賑やかになりそうだ。
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