男装彼女 | ナノ
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▽ 灰崎くんと男装彼女


誰かと反りが合わないことだなんて今まで全くなかったし、自分は大体の人間と仲良くできると思っていた。
…コイツと出会うまでは。

「ふざけんな灰崎桃井さんから離れろ!」

ブンッと振り回したモップの柄が灰崎の後頭部に直撃する。打たれた後頭部を押さえながらこちらを振り向いた灰崎の向こうで、桃井さんが目に涙をいっぱい溜めて震えていた。

「んだよまたお前かあずさ!邪魔すんなよな、今いいとこだったのに」
「桃井さん嫌がってるじゃん!どこがいいとこなんだよこのクズ野郎!!」

自分より身長の高い彼に詰め寄りながら暴言を吐くが全く効果はないらしく、面倒だと言わんばかりの顔をされた。そりゃあそうだ、女みたいな顔をしているチビに凄まれたって何の迫力もないだろう。だがしかしコイツは女の敵である。この間コイツの毒牙にかかってしまった隣のクラスの花子ちゃんが大泣きしていたのを知っている私としては、こんな危険人物を野放しにしておくわけにはいかないのだ。同じ女として許すまじ灰崎。

「つーかお前には関係ないだろ。赤司のところにでも行ってろ」
「関係あるもん!むしろお前の方が関係ないだろ灰崎!!」

周りの部員たちはまたかよ…みたいな目でこちらを見ていたけれどそんなことは知ったことではない。今日こそビシッと言ってやらねば気が済まないのだ。
だんだんと悪くなる口調(捉え方によっては男の子らしいけれど)を戻そうともせずに叫ぶようにそう言い返すと、それを聞いた灰崎はへえ、とおもしろそうな反応を示した。

「オレが桃井を口説くのにお前が関係あるってどーゆーこと?」

灰崎は知っているのだ。今の言葉が戯言であれ本当のことであれ、どちらにせよそこをつけば私が返答に詰まることを。知っていてそんなことを言うのだからコイツは本当にタチが悪い。ぐっと唇を噛み締めながら私は咄嗟に、ある意味一番言ってはならないことを口にした。

「ぼっ、僕は桃井さんのことが好きなんだからお前なんかに桃井さんが口説かれているところを見ていい気がするわけないだろバーカ!!」

しん、静まった体育館。驚きに目を見開く桃井さん。おもしろそうに口元を歪める灰崎。
誰かが落としたらしいボールが、音を立てて私と灰崎の間に転がってきた。

「へー、お前桃井のこと好きだったの」
「あ…いやその今のは何というかえっと」
「そりゃあ関係あるよなあ。ワリイな、気づいてやれなくて」

お邪魔虫は退散するわ、と体育館から出て行く灰崎はこの状況を完全に楽しんでいた。
だってこれ、誰がどう見ても公開告白じゃん。しかも相手は学年一の美人だし。何てことをしてしまったんだ自分。他にも言い訳はあったはずなのに。

「……あずさくん、」

俯いたまま近づいてくる桃井さんは今どんな心境なんだろう。いくら桃井さんを守るためだとはいえついちゃいけない嘘だったなあ…。
だけど平手打ちを覚悟して固く目を瞑った私に与えられた衝撃は、それよりもとても衝撃的なものだった。

「あずさくんっ」
「……え?は、ちょ…え?」

ぎゅうぎゅうと私を抱きしめる桃井さんの向こうから駆け寄ってきた青峰くんが、よかったなあずさ!なんて言って私の背中をべしりと叩く。とりあえずこの場の誰よりも状況を飲み込めていない私が助けを求めて征くんを見つめたけれど私と目が合った征くんはそれはそれは冷ややかな笑みを浮かべるものだから、私はこのあとに待っているお説教を思い描き肩を落とすしかなかった。

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