男装彼女 | ナノ
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▽ 桃井さんと男装彼女


「…どうしよう、」

体育館の陰からこっそりと顔を出して状況を確認する。壁を背に泣きそうな顔をしている一人の女の子を5、6人の女の子たちが取り囲んでいた。しかもあの子…同じ部活の桃井さんじゃない?やっぱりあれかな…かわいい子だから妬まれちゃうのかな?…明るくて優しくていい子なんだけどなあ。

「そんなところで何してるんだ?」
「わっ!?」

後ろから突然声をかけられたために思わず大きな声を出して反応してしまった。たしかに端から見たら覗き見してる変な人だけど…。

「しーっ、征くん静かにして!」
「もがっ」

大きな声を出したのは自分だが征くんの口を塞ぐ。ここで覗き見していたのがバレただろうか。征くんの口を塞いだまま再び覗き見ると、女の子たちが全員こちらを見ていた。…こうなったら仕方がない。

「…っ、そういうのいけないと思います!」

突然私が飛び出してきたからみんな驚いているらしく、何コイツみたいな顔で見られた。うわああああ、こういうとき何て言えばいいんだろう!

「そ、そういうのいけないと…えと……」
「……」
「あの、だから…その、「……わいい」へ?」
「何この子かわいい!」

ええええ!?予想外の展開に固まる私に群がってくる女子。一体これはどういう状況なんだろう。もしかして桃井さんの代わりに私が袋叩きにされるのでは…。

「小さいしかわいいしホント女の子みたい!名前は?」
「こんなにかわいい一年生がいるなんて聞いてないんだけど!」

な…なんだこの人たち!さっきまであんなにおっかない顔で桃井さんに罵詈雑言を浴びせてたくせにこれは一体どういうこと!?
あたふたする私を取り囲む女子。誰か助けて!と心の中で叫んでいると、後ろから誰かに腕を引かれた。

「――すみませんが、そろそろ部活が始まるので離してやってくれませんか」

征くんが冷たくそう言うと、先ほどまできゃあきゃあとはしゃいでいた彼女たちは急に静かになって我先にと走り去って行った。征くん今絶対怖い顔してるんだろうなあ…。
あっ、しまった!もう桃井さんには絡まないでって言いたかったのに…。

「あずさ、」
「ちょっと待ってて」

彼女たちがいなくなって気が抜けたのか、へなへなとその場に座り込んだ桃井さんに近づく。目に涙をいっぱい溜めた桃井さんはゆっくりと顔を上げた。

「大丈夫?」
「あ……うん。ありが、とう…」
「えっ…僕何もしてないよ?なんか役立たずで…ごめんね」

そう言って桃井さんに手を差し出すと、彼女は顔を歪めて私に抱きついた。やだ桃井さんめちゃくちゃいい匂い…じゃない。

「もももも、桃井さん!?」
「うわあああん、あずさくーん!」
「えええええ!?」

女子の集団に取り囲まれて、よっぽど怖かったんだろう。子どものように私に縋りついて大泣きする桃井さんの背中を優しく擦ってあげると、彼女は私に抱きつく力を強くした。
そんな私たちを見てなぜか複雑そうな顔をする征くんに無言で見守られながら、桃井さんが泣き止むまでしばらく彼女の背中を擦ったり頭を撫でてあげた。そのあと慌てて部活に行ったけどやっぱり遅れてしまって、なぜか私だけバインダーで頭を叩かれるという特典付きで虹村先輩に怒られた。桃井さんは女の子だから仕方がないとして(いやまあ私も女の子ですけどね?)、征くんには何もないとか…解せない。

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