男装彼女 | ナノ
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▽ 緑間くんと男装彼女


入部早々一軍入りを果たしたメンバーの一人である緑間くん。彼との出会いはある意味紫原くんとの出会いよりも記憶に残るものだった。

「すまないがオレが部活をしている間これを持っていてくれないか?」
「あ、はい………え?」

黒縁眼鏡の真面目そうな彼はそのとき私に、リ○ちゃん人形を差し出した。え、この人もしかして変態なんじゃあ…。断ろうとしたけれど緑間くんは先輩に呼ばれてすぐにいなくなってしまって、私は仕方なしにそのリ○ちゃん人形をズボンのポケットの中に入れた。
事情をこれっぽっちも知らない青峰くんや紫原くんにそれを見られて散々からかわれたのは言うまでもない。征くんの協力もあって誤解はとけたけれど、そのとき私はもう二度と緑間くんに関わるものかと心に誓った。それなのに。

「あずさ、今日も頼むのだよ」
「ああ、うん…。今日は鉛筆削りなんだ」

私に持たせることに味を占めたのか、あの○カちゃん人形の一件以来彼は私にラッキーアイテムを持たせたがるようになった。入部したばかりの頃は体育館の隅に置いていたらしいけれど先輩に邪魔だと怒られたとかで、それならコイツに持たせとけばいいんじゃねみたいな考えにいたったらしい。何それ超迷惑なんですけど、とも言えず、私は今日も緑間くんのラッキーアイテムを預かるのである。

「わ、削りカス入ってるじゃん。落としたら大変だし捨ててもいい?」
「お前が落とさないように注意すれば問題はない」
「マジか」

今まではヘアピンとか眼鏡ケースとかキャンディーとかポケットに入れられるものばかりだったけれど、鉛筆削りはどう頑張ってもポケットには入らない。でも手に持ったままだとマネージャーの仕事ができないし…と悩んでいると、私にラッキーアイテムを託したことで満足してしまったらしい緑間くんは颯爽と去っていった。その辺に放置してもいいけどそうしたら緑間くんがまた先輩に怒られてしまうだろう。
仕方がないから持っていてあげようかな。私は片手に鉛筆削りを持ってマネージャー業務に取り組んだ、が…。

「わ、」

休憩に入った部員の間を縫うように歩きながら私を呼んでいるという虹村先輩の元へ急いでいると、足元をよく見ていなかった私は誰かの足に思いっきり引っかかってしまって。あ、と思ったときには時すでに遅し。私は体育館の床とこんにちはする羽目になった。

「いったあ…」
「おい橙矢大丈夫か?」
「は、はい…。大丈夫で」

す、言い切る前に誰かが私の頭をガシリと掴んだ。頭蓋骨がミシミシと音を立てるのがダイレクトに頭に響いてきて、私の口からは女の子らしからぬ呻き声が漏れる。まあ今女の子みたいな声を出したら逆に引かれちゃうからいいんだけども。

「橙矢テメエ何ぶちまけてくれてんだコラ」
「痛い痛い痛い、痛いです虹村先輩頭蓋骨が砕けます!!」
「何でテメエは鉛筆削りなんて持ってんだしかも削りカス入れたままとか何?お前の頭は鉛筆削りのカスしか入ってないのかよ」
「みど、みどりまく…!」

ヘルプ!叫ぶ私の視界の端で、緑色が鉛筆削りを大事そうに拾い上げていた。どうやら彼の頭の中では私<ラッキーアイテムという不等式が成り立っているらしい。緑間くんのバカ、もう二度とラッキーアイテムなんて持ってあげないんだから。

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