男装彼女 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ 結局みんなにバレました


征くんが持っていたボールペンが真っ二つに折れた。バキリという音がしたあと、私たち四人の間に痛いほどの沈黙が流れる。

「お前さあ、何の冗談だよ」

最初に言葉を発したのは青峰くんだった。バカにしたような、信じられないというような。何とも言えない表情を浮かべる青峰くんと、いっそ恐ろしくなるほど無言のままの征くん。それから口をぽかーんと開けたままの黄瀬くんがじっとこちらを見つめてくる。

「オレたちがふざけたのが悪かったんだし、そもそもお前がバカなのは知ってるけどよ。もう少し言い方ってもんがあるだろ?まるで――」

青峰くんは言葉を詰まらせたあと、視線を泳がせながら「女みてぇじゃん」と呟いた。青峰くんがそこまで言い切ったためか、ようやく何かしらアクションを起こす気になったらしい黄瀬くんが渇いた笑い声を出す。

「そうっスよもう!あずさっちってば元々女の子っぽい見た目なんだから、思わず信じちゃったじゃないっスかー」

あははー、と笑う黄瀬くんの声は何だか虚しかった。本人もそう思ったらしく、その笑い声はすぐに小さくなって聞こえなくなってしまう。

「あっ、あああ赤司っち!あずさっちってホントに男なんスか!?」
「お前赤司になに聞いてんだよ!コイツらガキの頃から仲良いんだぜ?一緒に風呂とか入ったことあるだろうし聞くまでもねえだろ。なああか…し?」
「…………っ!」

青峰くんの発言のせいで真っ赤になった征くんは、口元を隠したままプルプル震え出した。どうやら一緒にお風呂に入ったことがある発言は征くんに多大なるダメージを与えたらしい。動揺したからって何でそんなことを口走ったんだ青峰くん……!

普段どんなピンチだって涼しげな顔で乗り切る征くんのその反応は、私が女だと証明しているようなものだった。

「ええええ何それホントなんスか!?」
「おいおいマジかよ……」

どうしよう。こういうときに限って征くんは役に立たないし、事情を知っていてかつ戦力になりそうな緑間くんもさつきちゃんも見当たらない。何で、どうしてと詰め寄ってくる二人が怖くて後退っても、距離なんて全然開かなくて。

「ひっ、」

喉から漏れた声は小さくて、それでも私の心境を的確に表していた。
何か、こう…迫力が、怖い。じわりと涙が滲んだそのときだった。

「うわあ!」

二人が視界から消えた。一瞬何が起こったのか分からなかったけれど、黄瀬くんの驚いたような声に視線を下げると二人はその場で尻餅を付いていて。

「あずさに、近付くな」

冷たい目で青峰くんと黄瀬くんを見下ろす征くんの手は二人の肩に掛けられていて。征くんが二人を転ばせたんだなあと、どこか他人事のようにそう思った。

「どうせずっと隠し通せるとは思っていなかった。あずさはボロを出しまくっていたし、むしろここまでお前たちにバレなかったことの方が奇跡だ」

ねえあずさ。同意を求めるように顔を上げた征くんの左目が、橙色に見えた気がしたけれど。光の加減のせいだったのか、瞬きした次の瞬間にはいつもの赤色が私を見つめていた。

「お前たちだって分かっていたんじゃないか?黄瀬はあずさのことが気になっていたようだし、青峰だって」
「は、はあ?オレは別にあずさのことなんて」
「"いとこのあずさ"とあずさは同一人物だよ」
「………え」

嘘だろ、と言わんばかりの顔で見上げてくる青峰くんからそっと目を逸らす。じゃあ合宿のときのアレは、と呟いた彼に視線を戻すことなく小さく頷くと、足元で尻餅を付いたままの彼は絶望したように呻き声を上げた。あんな嘘無理があると思っていたけれど上手く騙せていたらしい。ごめんね青峰くん。

「じゃあ何だよ、さつきも知ってたってことか?他のヤツらも、」
「桃井と緑間は知っているよ。あとはおそらく…黒子も、かな」
「テツも知ってたのかよ!?」
「知ってたっていうか、元からバレてたと言うか……」

影が薄くて分からないだけかもしれないけれど、黒子くんとは部活以外で会うことがほとんどない。私が男子制服を着ていることなんて知らない彼は私のことをさん付けで呼ぶし、青峰くんや虹村先輩から雑な扱いを受けたときはさりげなく庇ってくれる。勘違いではなく、完全に、黒子くんは私が女であるという前提の元に行動していた。

「何だ、随分大人しいな。お前たちはもう少し騒ぐと思っていたよ」
「リアクションに困ってるんスよ…!何であずさっち男装してるんスか!?こんなに可愛いのに!勿体ない!」
「何でって…お店の人が発注を間違えたから?」
「え、それだけ!?」
「やっぱコイツバカだ」

青峰くんには言われたくない。持っていたスコアボードで彼の頭をベシッと叩くと、余程痛かったのか青峰くんは「お前!女とか嘘だろ!?」と頭を押さえながら叫んだ。





二人への口止めは征くんがしてくれるらしい。だから先に着替えておいで、という征くんの言葉は優しかったのに目は笑っていなかった。たぶんキミがやろうとしていることは口止めじゃなくて脅しっていうんだよ征くん。なんて言えるはずもなく、征くんの言い付けどおり大人しく体育倉庫へと向かった。

だから私は三人の会話なんて知らない。二人に女だとバレたことに気を取られていた私は、体育倉庫は内側からは鍵がかけらない、ということをすっかり忘れていた。

「……あ、なんかごめーん」

ボールを片付けに来たらしい紫原くんは一瞬で全てを察したらしい。それだけ言って扉を閉めてしまった。
え、あれ、ちょっと待って。私今どんな格好してるっけ。何で紫原くんは扉を閉めちゃったんだろう。あれ?あれれ?

「………っ、っ!?せ、せせせ征くん!!!」
「何だ、今日は随分早かっ………見るなお前たち!!」
「ぐえっ!」

足元で正座をしていた青峰くんと黄瀬くんの顔を床に埋めた征くんは今までで一番俊敏だった。

「な、何て格好で出て来るんだ…!これでも着ていろ!!」
「ご、ごめ…!って違うそれどころじゃないんだよ征くん!!紫原くんがっ」

紫原くんに着替えを見られてしまったことを知った征くんは、凄まじい形相と共に紫原くんに突進していった。

……一日に三人にバレちゃうとか、ありえない。

prev / next