男装彼女 | ナノ
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▽ 黄瀬くんが入部しました


二年生になった。新入部員もたくさん入ってきて、ちょっとぶかぶかな制服を着た後輩たちが廊下で擦れ違うたびに「橙矢先輩こんにちは!」と挨拶してくれるのがむず痒い。

「後輩ってかわいいよねー。先輩たちから見たら去年の私たちもあんな感じだったのかなあ」
「だろうね」

先ほども一年生の女の子が「先輩、これどうぞ!」とお菓子を持ってきてくれたばかりである。知らない子だったけど…新しく入って来たマネージャーかな。呑気にそんなことを思っているともらったばかりのお菓子は征くんの口の中へと消えていた。

「え、何で食べちゃうの!?」
「何だか無性に食べたくなったんだ」

しれっとそう言った征くんの眉間には皺が寄っていて。あれ、何か気に障るようなこと言っちゃったかな。思い返しても特に心当たりはなかった。
空腹すぎて機嫌が悪いだけかもしれない。勝手に結論付けてへの字を描く口にウインナーを押し付ける。一瞬驚いた顔をした征くんだったけれどすぐに機嫌が治ったところを見ると私の考えは当たりだったのだろう。

「お前は本当に……」
「なあに?」
「…いや、何でもない」

征くんはそう言って誤魔化すように水筒に口を付けた。それ私のなんですけど。





「聞いてよあずさっち!またショーゴくんが……」

さつきちゃんが洗ってくれたボトルを運んでいると新入部員の黄瀬くんに絡まれた。黄瀬くんはバスケを始めて二週間で一軍まで上がってきた文字通りの天才である。しかもモデルをしているらしくて女の子からモテモテらしい。どうしてそんな人にここまで懐かれたんだろう。

「あずさみてーな弱っちいヤツに泣き付いて恥ずかしくねぇのかよ、リョータ」
「はあ?あずさっちは弱くないしつーか泣き付いたりとかしてねーから!!」

黄瀬くんは私を見つけるたびに駆け寄ってくる。 灰崎と揉めたときや青峰くんたちにからかわれたとき、シュートが綺麗に決まったとき。彼は事あるごとに私のところにやって来てはああだこうだと報告するのだ。
そしてそれを見た灰崎が黄瀬くんをからかって黄瀬くんが怒って、大喧嘩に発展する。ほら今日もまた、

「てめえ調子に乗りすぎだっつってんだろバァカ!!」
「痛っ……!ちょっと、スポーツ選手のくせに手が先に出るとか何なんスか!?」
「あーはいはいちょっとストーップ」

手や足が出始めた二人の間に割って入る。この二人が喧嘩を始めると近くにいるだけで無関係な私まで怒られるんだからいい加減にしてほしい。ほら、虹村先輩めっちゃ凄い顔してこっち見てる……。

「今すぐ黙らないと虹村先輩にタコ殴りにされるけどいいのかな君たち」

虹村先輩の名前を出した瞬間言い争いはピタリと止まった。二人ともお互いを睨み付けながら舌打ちをしたものの、すぐにそそくさといなくなる。

「よかったー、あのままだとこっちまでタコ殴りだったよ……」
「お見事でした、あずささん」
「ぎゃっ、黒子くん!?」

いつの間に後ろにいたんだろう。突然話しかけられて驚いた私はボトルが入っていた籠を思い切りひっくり返してしまった。ガッシャーン!という凄まじい音にたくさんの部員がこちらを振り返る。

「橙矢テメェ何してんだっ!」
「ごめんなさいいいいい」

虹村先輩の怒声を一身に受けながら慌ててボトルをかき集めた。黒子くんと、それから体育館の隅に逃げたはずの黄瀬くんまで駆け寄ってきて手伝ってくれる。

「二人ともありがとう…!ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「元はと言えばボクが驚かしてしまったのが原因ですし…。すみませんでした、あずささん」
「ホントっスよもー!アンタのせいであずさっちが鬼主将に怒られたんスよ!?」
「へえ?鬼主将ってそれはオレのことかな黄瀬クン?」
「ぎゃあああ出たああああ」

虹村先輩にラリアットをかまされた黄瀬くんがそのままズルズルと体育館の外へ連れ出される。そんな黄瀬くんを見て灰崎は鼻で笑っていた。





「えらく黄瀬に懐かれているようだけど、何かしたのか?」
「何もしてないよ!」

黄瀬くんの黒子くんや灰崎への態度を見ると、彼が私にあそこまで懐く理由が分からない。私は選手じゃなくてマネージャーだし、同じマネージャーでもさつきちゃんの方がしっかりしているのに。

「私が灰崎と仲良くないから仲間だと思われてるのかも」

友達認定されるのはいいけど私よりも黒子くんと仲良くしてほしいなあ……。黒子くんは教育係なんだし。

「………分かっているとは思うが黄瀬とは必要以上に接近するなよ」

女だとバレたら厄介そうだ。征くんの言葉に頷きながらも、そもそも近づいてくるのは向こうなんだから必要以上に近づかないようにするなんて無理なんじゃないかと思った。

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