男装彼女 | ナノ
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▽ 合宿に行こう 後編


「あっ、青峰くんこそ何でこんな時間に…!?お風呂はもう入ったはずじゃ、」
「枕投げしてたら汗かいちまったんだよ。んでちょっと汗でも流そうかと思って」

青峰くんと目を合わせないように俯いたまま二人のやり取りを聞いていた。こんな最悪なタイミング、この場に征くんがいたとしても絶対に誤魔化せないだろう。終わった。いやむしろここまでバレずに済んだことが奇跡だったんだ。
合宿なんて参加したら女だとバレるかもしれない。征くんの言う通りだった。怪しまれても怒られてもいいから参加するんじゃなかった。

「んなことより何であずさがこんなとこにいんの」
「こっ、これにはいろいろ事情が…!私が言い出したことであって、だからあのっ」
「……へぇ」

青峰くんの声ってこんなに低かったかな。たぶん私のこと軽蔑してるんだ。女なのに男のフリして気持ち悪いって思われてるんだ。
顔を上げるのが怖い。青峰くんの顔を見るのが怖い。何も言わない私に痺れを切らしたのか、青峰くんの大きな手がこちらに伸ばされたのを感じた。さつきちゃんが青峰くんに必死に何かを訴えている。それを青峰くんがうっせーよという一言で片付けた。
――あ、殴られる、かも。

「こんなところでまた会えるなんて思ってなかった」

ぽつり、青峰くんの口から零れたのは予想と大幅に違うセリフだった。頭にふわりと置かれた手は乾かしたばかりの髪をわしゃわしゃと掻き乱す。何事かと顔を上げると、満面な笑みを浮かべた青峰くんが私と視線を合わせるように腰を屈めていた。

「えっと…?」
「あずさが寝込んで人手が足りないからってコイツに呼ばれたんだろ?家が近いのか?」

何の話かな!青峰くんは何の話をしてるのかな!?助けを求めるようにさつきちゃんに視線を向ければ、さつきちゃんは心得た!と言いたげにウインクを飛ばす。そして。

「そうなの!一人じゃ全員分の面倒見切れないよって言ったら赤司くんがあずさちゃんの家が近いって言うから!じゃああずさくんの代わりに呼んでってお願いしたの!!」

混乱というか、話に付いていけないというか。この件についてはあとで部屋に戻ってから説明してもらおう。とりあえず今は私が女だとバレなかったことに安堵するべきなのだろうが、私にはどうしてもあのままバレた方がよっぽど良かったのではないかと思えた。


***


「ということで、具合が悪くなった橙矢くんの代わりにいとこの橙矢さんが来てくれました!」

ノリノリな桃井とは対照的にあずさはオレの背後に隠れて虚ろな顔をしていた。あずさとは長い付き合いだが正直ここまで参っている幼馴染みを見るのは初めてだ。さすがのあずさもこの作戦に無理があることは分かっているらしい。帰りたい帰りたいと今にも泣き出しそうな顔で訴えるあずさに大丈夫だよと告げて、オレはあずさの手を引いて虹村先輩に声をかけた。

「は?罰ゲーム?」
「はい」

怪訝そうな虹村先輩と怯えるあずさに挟まれたまま淡々と口を動かす。昨日一年生の間でゲームをしたこと。最下位だったあずさに桃井が罰ゲームとして女装するように言ったこと。ちょうどその場にいなかった青峰は女装したあずさを見て女だと勘違いしてしまい、あずさに惚れてしまったこと。

「つまり何だ?青峰の初恋を壊さないためにってこんな大がかりなことになってんの?」
「先輩たちを巻き込んでしまい申し訳ありません。他の部員には虹村先輩の口から説明していただいてもよろしいでしょうか」

モチベーションが下がると困るので青峰以外に、と付け加える。虹村先輩はあずさに「お前も大変だなァ」と憐れんだ視線を向けながら快く了承してくれた。

「それにしても初恋の相手が男か……。可哀想な青峰」
「……そうですね…」

その後しばらくの間、青峰はホモなんじゃないかという疑惑が部員たちの間でまことしやかに囁かれることとなる。



「とりあえずこれでバレずに済むだろう。青峰の前でだけ女のフリをしておけばいい」
「征くんありがとう、ホント大好き……!!」
「っ、」

その言葉にはオレと同じ気持ちなんて含まれていないはずなのに。不意打ちでそんなことを言われてしまえば、あずさのためならどんなことだってやれる気がした。

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