男装彼女 | ナノ
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▽ 合宿に行こう 前編


さつきちゃんに借りた英語の教科書を返しに行こうと廊下に出た瞬間、部活以外では顔を合わせたくない人ベスト3に入る我らが主将にぶつかりそうになった。

「にっ、虹村先輩…!」
「おう橙矢、ちょうどいいところに」

何で虹村先輩が一年生の教室にいるんだろう。しかもなんかめっちゃ笑顔だし……はっ、もしかして教科書忘れたのバレてる!?咄嗟に教科書を後ろに隠して頑張って笑顔を作った。

「せっ…!あ、赤司くん呼びますか!?」
「いやいいわ。用事があるのはお前だし」

虹村先輩がわざわざ出向くような用事…?朝練でゼッケンが入っていた籠をぶちまけたのがバレたのかな。それとも部室の鍵を掛け忘れたか…いやでも征くんが一緒だったからそれはない、はず。
緊張に固まる私に先輩がほれ、とプリントを差し出した。ちょっと待ってくださいもしかしてこれ退部届ですか!?そりゃあ怒られてばっかりだし自分でも役に立ててないかなあとか思ってたけれども!!

「先輩ごめんなさいいいい!ゼッケンはちゃんと洗います!だから退部だけはご勘弁を!!」
「退部?何の話だ」

よく見ろバカ、と鼻先に突き出されたプリントを恐る恐る受け取る。そこに書かれた文字を見て肩から一気に力が抜けた。

「合宿のお知らせ…?」
「今度こそ参加してもらうからな、橙矢クン?」

合宿なんて参加したら女だとバレるかもしれない。そう懸念した征くんがそれらしい理由を考えてくれたおかげで今まで合宿に参加したことがなかった。いつまでもそれが通用するとは思ってなかったけれどまさか、主将直々に参加のオファーがあるとは。

「そうそう、朝ぶちまけたゼッケンはきちんと洗っとけよ」
「はーい…」

やっぱりバレバレだったらしい。かなりの量があるけどまあ、さつきちゃんに手伝ってもらえばすぐ終わるかなあ。なんて思っていれば、「桃井に甘えるのはナシだからな」と言いながら教科書で頭を叩かれる。
いつの間に取られたんだろう。私の頭を叩いた教科書はさつきちゃんのものだった。



「ということで、合宿に参加することになりました……」

そう報告すると征くんが呆れたと言わんばかりに深いため息をついた。征くんの隣では緑間くんが頭を抱えている。

「どうするのだよ…男子は学年ごとに大部屋だぞ……」
「どうにかして桃井の部屋に行かせるしかないな…」
「そういえば、具合が悪くなった人のために取ってある部屋がマネージャーの部屋の隣なんだけど」

その部屋に行くことにして私の部屋に来るのはどう?そう提案したさつきちゃんは最早女神様にしか見えなかった。

「ありがとうさつきちゃん…!」
「気にしないで!ちょうど一人部屋で寂しいなって思ってたし」

部屋割りが決まったところで、どのタイミングで部屋を移動するか、お風呂はどうするかという話し合いが始まった。なるようになるだろうと思っていた当事者より真剣に意見を出し合う三人はとても同い年には見えない。

「じゃあそういう手筈で。いいな、あずさ」
「何から何まで申し訳ないです……」

ここまで念入りな計画を練っていれば無事に合宿を終えることができるだろう。それは私だけではなく緑間くんもさつきちゃんも、征くんさえもそう思っていた。





体調不良で別室で寝ることになった、というところまでは順調だった。夕食の時間は具合が悪いフリをしてちゃんと部屋にいたし、部員を代表して様子を見に来たという設定で顔を合わせた征くんにも「夜9時以降ならみんな部屋にいるはずだから、桃井と温泉に入っておいで」って言われた。だから私とさつきちゃんは征くんの言う通り、9時を回ったのを確認してからお風呂に入りに行ったのに。

「……何でお前、こんなとこに」

さすがのさつきちゃんも隣でピシリと固まっていた。何で、どうして。9時以降はみんな部屋にいるんじゃなかったの?

「あずさ…?」
「っ」

女湯から出て来た瞬間鉢合わせしたのは、私たちと同じくお風呂上がりらしい青峰くんだった。

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