男装彼女 | ナノ
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▽ 黒子くんの勘違い


今日は散々な一日だった。朝から寝坊するし慌てて家を飛び出したからお弁当忘れるし。お約束のようにお財布の中身はすっからかんだった。まいう棒一本買えなかった。

絶望する私を憐れんだ征くんが一番高い学食を奢ってくれた。神様仏様赤司様……!喜びながら豪華なおかずが乗ったお盆を運んでいると、友達とふざけあっていた黄色い髪の男子がぶつかってきたせいでスープ皿がひっくり返った。あつあつのスープが手にかかって思わず叫びそうになるくらい熱かったのに、「あ、ごめーん!」で済ませた名も知らぬ黄色頭に腹が立って仕方がない。ムカついたからスープで汚れた手を彼のジャケットでこっそり拭いておいた。
ちなみに征くんに奢ってもらったデミグラスソースの煮込みハンバーグはスープがinしたせいでよく分からない味になっていた。

そしてやっと訪れた放課後。

「やっと放課後…!征くん早く部活行こう!!」
「橙矢くん、今週掃除当番だよ」
「えっ!?」
「……先に行ってる。できるだけ早く来るんだよ」

挙げ句の果てにゴミ捨てじゃんけんで負けた。裏で示し合わせていたみたいに綺麗な私の一人負けだった。
ゴミを捨てたあと時計を見るとすでに部活が始まっている時間だった。どうしよう遅刻だ。虹村先輩に怒られる。まだ怒られてもいないのに泣いてしまいたかった。しかし私の不運はそれだけではなかったのである。

「わ、ごめんなさ…灰崎!?」
「んだよあずさ…ぶつかってきたくせに何つー態度だ」
「はあ?ぶつかってきたのはそっちじゃん」

再確認した。今日はとことんついてない日だ。
校舎の陰から飛び出した瞬間ぶつかってしまった相手は灰崎だった。

「あーいてー、骨折れたかも。つーわけで、今日の練習は休」
「はいはい灰崎くん、一緒に部活に行きましょうねー」
「あ、こらふざけんなあずさ…!」

じゃっ、と手を上げる灰崎の襟首を掴んで体育館へと向かう。灰崎とぶつかってしまったのは災難だったけれど、コイツがいれば虹村先輩のお説教も半減されることだろう。ありがとう灰崎くん、君の犠牲は忘れない。

「うぃ〜〜〜す」
「遅れましたすみません!お疲れ様です!」
「遅刻だぞ二人とも」
「へーへー次からは気を付け「灰崎連れて来たから許してください!」オイ!!」

さっそく灰崎を突き出したらキレた灰崎に髪の毛を引っ張られた。女の子に掴みかかるとか何てヤツ…!やっぱりコイツは女の敵だ。許すまじ灰崎!!

「あの、」
「「うわあっ!?」」

突然かけられた声に驚いて咄嗟に灰崎の背中に隠れる。自分もビビッていたくせに根っからのヤンキー灰崎は恐怖心を隠すようにメンチを切っていた。

「誰だテメェ!?」
「黒子テツヤです。今日から一軍に……あ、」

聞き覚えのある名前だった。ひょっこりと灰崎のうしろから顔を出すと、いつぞや三軍の体育館で出会ったオバケこと黒子くんがいた。

「黒子くん……!どうしたの?もしかして今日から一軍!?」

今日はいいことなんて全然ないと思ってたのに。黒子くんが一軍の仲間になるなんて、今日私が不運だったのはこのためだったのかもしれない。

「なんだ、あずさも知り合いだったのか?」
「青峰くんに三軍の体育館に連れていかれたときに会ったことがあって」
「はい。よろしくお願いしますね、あずささん」

礼儀正しく挨拶をしてくれる黒子くんにつられて私もぺこりと頭を下げる。なぜか隣で怪訝そうな顔をする征くんにどうしたのと尋ねても、いや、と首を振るだけで何も答えてくれなかった。

虹村先輩曰く、黒子くんが一軍入りを果たすきっかけになったのは彼の実力を見込んだ征くんの口添えがあったかららしい。黒子くんとは青峰くんと三軍の体育館に行ったあの日以来一度も会っていなかったから、黒子くんが一体どれほどの実力を持っているのか分からない。あのときはあんまり上手そうには見えなかったけれど、相手が青峰くんだったからそう見えただけかもしれないし。なんて思っていたのは練習が始まる数分前まで。

「おわー!吐くなテツっ!」

青峰くんの叫び声にそちらを見ると……うん。黒子くんが大変なことになっていた。

「おーいさつきー!バケツとタオル!!あとあずさはコイツをトイレに連れて行ってやってくれ!!」
「え?きゃーっ」
「うわあ…」

一軍の練習が凄いのは知ってたけどそんなにキツイんだ…。真っ青な黒子くんの体を支えて男子トイレに向かう。この際入りたくないとかどうしようとか考えている場合じゃなかった。



「すみませんあずささん…。トイレにまで付いてきてくださって」
「気にしないで、こういうのもマネージャーの仕事だから」

口の中をすすいだ黒子くんにタオルを渡しながらそう返す。黒子くんは律儀に「ありがとうございます」と言ってそれで口元を拭いた。

「でも女性に見苦しいところを見せてしまって…」
「いやそんな……え?」

首を振りながら今の黒子くんのセリフに違和感を感じた。女性…?今黒子くん女性って言った?

「それじゃあボクは練習に戻ります。お世話になりました」
「ちょ…黒子くん!」

訂正しようと黒子くんの名前を呼んだけれど、青峰くんに呼ばれた彼は私に頭を下げて青峰くんの元に行ってしまった。
どうしよう、征くんに怒られる。だんだんと顔が青ざめていくのが自分でも分かって、こっちに来いと手招きする征くんから全力で逃げ出したかった。

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