男装彼女 | ナノ
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▽ 赤司くんを置いて帰りました


私は男の子のフリをしているけれど立派な女の子だ。トイレだって更衣室だって女性用を使わなければならない。トイレの方は人が来ない場所を把握済みだから問題ないけど、更衣室ばかりはどうしようもなかった。なぜならそう、体育館の女子更衣室はマネージャーたちが使っているのだから。

「あずさ、早くしろ」
「ちょ……ちょっと待って!」

仕方なく私は体育倉庫で着替えている。だけど倉庫の鍵は外側からしか掛けられない。以前Tシャツを脱ごうとした瞬間にボールを片付けに来た青峰くんがドアを開けてしまったことがあり、二度とそんなことがないようにと征くんが見張りをしてくれるようになった。

「ごめん、お待たせ!」

倉庫から出てきた私の首にぶら下がっただらしないネクタイを一瞥した征くんは、ため息をついて結び直してくれた。

今日の鍵当番は私だった。征くんたちは校門で待っていてくれるらしい。ただでさえ着替えの際にお待たせしたのにこれ以上待たせるのは申し訳ないと、職員室に鍵を返却したあと慌てて校門へ向かう。

「……あれ、他の二人は?」

校門には紫原くんとしかいなかった。周りを見回しても一緒に帰る約束をしていた征くんと緑間くんの姿はない。

「先帰ってろってー。ミドチンも残っちゃったしさあ」

くわえていた棒キャンディを一旦口から出して、紫原くんはいつも通りのんびりした口調で言った。そっか、征くんが先に帰ってろって言うならもう帰っちゃおう。お腹すいたし。

「じゃあ途中まで一緒に帰ろう」
「んー、コンビニ寄ってもいいなら」
「えー、家帰ったらご飯でしょ?お菓子はやめた方がいいよ」
「あずさちんうざー。ミドチンみたいなこと言うなし」

紫原くんにわしゃわしゃと髪の毛を掻き乱される。いつもはまっすぐ帰るのにコンビニに長居してしまったためか、結局家に帰りついたのはいつもより30分も遅い時間だった。そしてそれだけ遅ければ、先に帰ってろと言った征くんの方が先に帰りついているのも当たり前で。

「ただい………ま」
「どこをほっつき歩いていた」

嫁入り前の娘を持つお父さんみたいなセリフを口にした征くんが玄関先で仁王立ちしていた。

「オレを置いて先に帰るなんていい度胸だね、あずさ」
「え、だって紫原くんが先に帰ってろって言われたって」
「たしかに紫原には言ったがお前には言ってない」

なんて理不尽な…!紫原くんが緑間くんも残ったって言ってたから一人で帰ったわけじゃないんだし、別にいいと思うんだけど。

「めんどくさ…」
「何か言ったか」
「何デモナイデス」

しつこいほどのお説教は夕食中も続いた。おかげさまでやっとありつけた夕食なのにから揚げの味が分からない。
征くんを夕食に誘うという、この最悪な状況を作り出した張本人であるお母さんは「相変わらず仲良しねぇ」なんて呑気にお茶を啜っていた。お父さんはまだお仕事から帰って来ていないけれど、どうせこの場にいたら征くんと一緒にお説教を始めるのだろう。

征くん早く帰ってくれないかなあ。そんな思いとは裏腹に空気の読めないお母さんは征くんに「遅くなっちゃったし今日は泊まったら?」なんてとんでもないことを言い出したのだった。

「何でそうなるの!?」
「誰のせいでこんな時間になったと思ってるの、あずさ」

え、私のせい?私が悪いの?
困惑する私の隣で「お邪魔でないなら」と返した征くんの手には我が家に常備してある征くん用のお泊りセットが握られていた。

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