男装彼女 | ナノ
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▽ 青峰くんと女の子


結論から言うと、結局私は自分が女であることを桃井さんに告げなければならなかった。だってそうしないとホモな上に女装癖がある変態みたいに思われるところだったから。

桃井さんはやっぱりショックだったみたいだけど、土下座する勢いで謝り倒す私を最後は笑顔で許してくれたのだった。その上で桃井さんは改めて私と映画を観に行きたいと言ってくれたのだから本当に素敵な女の子だと思う。私だったらとりあえず平手打ちをお見舞いするところだ。

そんなこんなで今日は土曜日。約束の映画も観終わり、マジバでおしゃべりタイムに突入した私たちはとんでもない人と会ってしまったのである。

「あれ、さつきじゃん?」
「大ちゃ……青峰くん!?」

しまった、油断した……。今日は女の子の格好をしてるから知り合いに会ったらまずいと思ってわざわざ学校から遠い映画館に行ったというのに。よく考えたらここ、帝光の人たちがよく来るところじゃん。血の気が引くとはまさにこのことを言うのだろう。指先の感覚が無くなって、背中を変な汗が流れた。
お願い、私に気が付かないで……!出来るだけ壁に寄って小さくなりながら心の中でそう訴える。このまま壁になってしまいたい。そんな願いも虚しく私と青峰くんの目はばっちりと合ってしまったのだった。

「あれ?お前、今日はあずさと出掛けるって言ってなかったか?」
「えっ!?あ、ああうんそうなんだけど…!あずさくん急用ができたって言うから代わりにこの子と…」
「へー…あずさの親戚かなんか?アイツに似てんな」

咄嗟にさつきちゃんが誤魔化してくれたというのに青峰くんときたら…。これが野生の勘というヤツなのだろうか。青峰くんは私が一人っ子であることを知っているため妹だなんて嘘はつけない。そのことを知ってか知らずか、私よりも頭が切れるさつきちゃんは叫ぶように「あずさくんのいとこなの!」と告げた。

「あずさのいとこかよ。めっちゃそっくりじゃん」
「あはは…私も最初見たときびっくりしたんだあ」

さつきちゃんが乾いた笑みを零す。勘が鋭い青峰くんだけど頭の作りが弱いので特に気にも留めなかったらしい。あずさの友達の青峰大輝だと、爽やかに自己紹介をしてくれた。

「お前は?」
「橙矢…」

脳裏にはあずさ子とかいう明らかに嘘くさい名前しか浮かばない。初対面のとき、私の名前を聞いた青峰くんが「女みたい」というコメントを口にしたのを思い出して、私は結局「……橙矢あずさ、です」と答えることしかできなかったのだった。

「名前まで一緒なのかよ…すげえな…」
「は、はい…偶然」

よかった、青峰くんがバカで。これが征くんだったら確実にバレてるよ…。

「そ、そろそろ行こっか!じゃあね、青峰くん!」
「あ、えと…失礼します」

さつきちゃんに急かされるように立ち上がって青峰くんに頭を下げる。青峰くんはバカだから騙されてくれたと思う……けど、ひょんなことで私が青峰くんがよく知る橙矢あずさであるとバレるかもしれない。何か普段私が言わない言葉を言っておいた方がいいだろう。緑間くんの言葉を借りれば人事は尽くしておかなければならないのだ。

「ご、ごきげんよう…」

いつもは使わないどこぞのお嬢様のようなセリフを口にして、私は青峰くんに背を向けたのだった。





「遅くなってすまない、青峰。レジがかなり混んでいて…。席は空いていたか?」
「……」
「青峰?」
「………し、」
「?」
「天使が、いた」

青峰くんから一部始終を聞いた征くんに何てことをしたんだと雷を落とされるまで、あと数時間。

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