男装彼女 | ナノ
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▽ 緑間くんにバレました


「とまあ、こういうわけだ」

赤司がげんなりとした顔で投げやりにそう言った。正座を崩すことなくそれを聞き終えたオレはやはり状況が掴めず、隣で同じく正座をしているあずさに視線を向ける。オレの視線に気が付いたらしいあずさはちらりとこちらを見ると気まずそうに俯いてしまった。
前々から同年代の連中と比べると随分華奢なヤツだとは思っていた。女のような名前であることも相まってコイツは女なのではないかと思ったこともある。だがしかし、本当にそうだったなんて夢にも思わなかった。

「……女子が男装しているなど、にわかに信じられないのだよ」

いくら何でもおかしいだろう。店員が間違えて男子の制服を仕立ててしまったのだとしても、女子の制服を仕立て直してもらうのに時間がかかるのだとしても、それを自ら着たいなどと言い出すなんて。
赤司からあずさが男装をすることになった経緯を語られてもやはり納得できず、そんなバカがいるものかと思ってしまう。赤司が嘘を付いているとは思えないし、むしろあずさは本当は女だったと言われた方が納得もできるというのに。

「信じられないという気持ちは分かるよ、緑間。だけど残念ながらあずさの言動はオレたちの発想の斜め上をいくからね…。
どうしてもオレの言葉が信じられないなら明日にでもあずさに保険証を持って来させようか?」
「いや……大丈夫なのだよ」

短い付き合いだがあずさがバカで無謀で能天気な性格をしていることはよく知っている。そうだ、あずさだから仕方ない。あずさに常識を求めること自体が間違っているのだ。

「そういえば桃井はどうなのだよ。アイツはこのことを知っているのか?」
「いい着眼点だな、緑間。まさにそれが問題なんだ……なああずさ?」
「うっ……」

赤司に咎められるような視線を向けられたあずさがふいっと視線を逸らす。恋愛に対する興味などこれっぽっちも無いがあずさが桃井に公開告白したときオレもその場にいたため二人が所謂恋仲であることは知っていた。この様子だと桃井はあずさか女だと言うことに気が付いていないらしい。どうするのだよ。

「ちょうど桃井と別れるように言っていたところにお前が来たんだ」
「征くんってば口を開けばさっさと別れろって言うの!ひどいよね!」
「オレからも言ってやろう。さっさと別れろ」
「緑間くんまで!」

物事には順番がどうのと言い張るあずさに頭が痛くなってくる。赤司はよくこんなバカの面倒を見ていられるな。オレだったら堪えられないのだよ。

「だからさっきから別れろって言っているだろうバカあずさ。お前はそんなに桃井を傷付けたいのか?」
「そんなこと思ってないもん!思ってないけど別れ話を持ち掛けても傷付けちゃうよ!?」
「全くお前はああ言えばこう言う……。バカのくせに口だけは達者だな」

どうにかしてあずさを説得しようとしている赤司は呆れたような顔をしながらも満更ではないらしい。あずさに向けられているその視線は柔らかいもので、赤司にはまだまだ敵わないなとしみじみと感じた。

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