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あたしうそをついたの

努力は報われると信じていた。

頑張って頑張ってがんばって。頑張ればいつか、射手としての能力不足も、足りないトリオン量も、どうにかなると思っていた。

だけど本当はずっと知っていた。能力不足は努力や工夫次第で補えるかもしれないけれど、トリオン量だけは努力なんかじゃどうにもならないと。私のトリオン量では射手を続けていくのは難しいと。知っていたのに、私は知らないフリをし続けた。一生懸命な私を東さんは「根性があるな」って評価してくれたけど、私にあったのは根性なんかじゃなくて、自分でも上手く制御できないプライドと意地の塊だけだった。

報われない努力を続けるのはきつかった。だけど自分からやめるなんて言うのは、プライドが許さなかった。
やめるためのきっかけが欲しい。そうだ、いっそのこと、誰かに惨敗してしまえば。

「天野、こいつと模擬戦してみないか?この間入ったばかりだがかなり優秀なんだ」

東さんに紹介されたとき、二宮はまだC級隊員で、入隊してまだ1ヶ月も経っていなかった。
二宮のことは知っていた。私の倍以上のトリオン量を持っていて、射手としてずば抜けたセンスや能力があって。私が喉から手が出るほど欲しかったものを全部持っている、上層部が期待している射手の新人。
こいつしかいないと思った。
二宮ならきっと、私を解放してくれる。

もちろん模擬戦は全力で戦った。負けるために手を抜くのは二宮に失礼だと思ったし、やっぱり私のプライドが、手を抜くことを許さなかった。
思った通り、私は二宮に惨敗した。2対8というボロ負けだった。

私は周囲に、「入ったばっかりの新人に負けたからやめる」と言った。私自身の問題を二宮のせいにした。二宮は何も悪くないのに。

それから少し経って、私が射手をやめてエンジニアに転向したあと、出水がボーダーに入隊した。
あいつは天才だとみんなが言っていた。思い付きで合成弾を作ったとも聞いた。二宮はその教えを乞うために頭を下げたのだと言う。

やっぱり二宮は凄いと思った。私は二宮みたいに、プライドをかなぐり捨ててまで年下に頭を下げることが出来なかったから。
私が二宮に「強くなりたいから教えてほしい」と頭を下げることが出来たならば、違う未来があったんじゃないだろうか。










東さんの言う通り、私はいつも言い訳ばかりだった。射手をやめるための言い訳がほしくて二宮を利用した。二宮に告白されても、自分の気持ちに向き合うのが怖くて、突拍子もないことを言った二宮のせいだと思った。

「あー…すまない天野。泣かせるつもりはなかったんだが」

東さんの謝罪に首を横に振る。東さんが謝ることじゃない。私が二宮に、謝らなければ。
今まであんなに二宮のことを避けて遠ざけていたのに、今すぐにでも二宮に会わなければならないと思った。私にそんなことを言う資格があるのかは分からないけれど。

「…ありがとう、東さん」

恥ずかしくて東さんの顔を直視することはできなかったけれど、小さな声でそう呟いた。
どういたしましてと返してくれた東さんは、頑張れと言う代わりに、私の頭をぽんぽんと叩いた。

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