二十万打 | ナノ
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▼さよなら野蛮人

当真くんとか荒船くんとか、同い年の隊員たちとは結構仲が良い方だけど、影浦くんだけはあんまり話したことがない。だって影浦くんっていつも怖い顔してるし何もしてないのに睨んでくるし、言葉使いも乱暴だし。ちょっぴり苦手だなあと思って出来るだけ関わらないようにしていた。
だから私は影浦くんのことについて何も知らない。例えばそう、影浦くんがお好み焼きを焼くのがすごく上手なこととか。

「すごい、影浦くんのが一番きれい……!」

ゾエくんや村上くんたちのもきれいに丸くなっているけど、影浦くんのは丸くてふわっとしていて一番美味しそうだった。影浦くんって意外と器用なんだなあと思っていると、隣に座っていたゾエくんが「そりゃあここカゲの家だからねえ」と教えてくれた。え、影浦くんのお家ってお好み焼き屋さんなの。知らなかった。

「そういえば名字は一緒に来たことなかったな」
「うん、初めて来た!わたしお好み焼き大好きだから、今度はクラスの子と一緒に来るね!」
「来なくていいっつーの。おい、早くしねーと焦げるぞ」
「あ、う、うん」

お好み焼きを引っくり返すのって結構勇気がいるよね。未だにコツとかタイミングとか分かんないなあ。勢いよく?それとも慎重に?あれ、影浦くんってさっきどうやって引っくり返してたっけ?真正面に座ってるんだからちゃんと見とけばよかったな。

「……オイ、さっさとしねーと割れ」
「あっ」

もたもたしている間に小手で両側から持ち上げていたお好み焼きは鉄板の上に落下してしまって、何と言うかもう、悲惨なことになっていた。隣のテーブルの当真くんたちにまでゲラゲラ笑われて恥ずかしい。

「割れたな、見事なまでに」
「おまえ下手くそすぎだろ…」
「めっちゃ挙動不審だったねー。動画撮っとけばよかったなあ」
「おうおう名字チャン、この当真さんの綺麗なやつと交換してやろうか?」
「み、見た目はアレだけどお腹に入れば一緒だよ…!」

私が隣のテーブルに文句を言っている間に村上くんたちが鉄板の上に散乱したお好み焼きの生地を小手を使ってかき集めて、形を整えようとしてくれていた。さすがに割れた跡は隠せないけど二人のおかげでだいぶんマシになったなあと思っていると、なぜか私の歪な形のお好み焼きが鉄板の上を滑っていって、影浦くん作の綺麗なお好み焼きと場所を変えられた。

「え、なに!?」
「あ?中身一緒だったし別にいいだろ」
「いやいやいや」

なんで私のと影浦くんのを交換するの?その歪なやつ影浦くんが食べるってことなの!?

「腹に入れば一緒だっててめーが言ったんだろ」
「いやそうだけど…そうだけどっ!!」
「ごちゃごちゃ言わずにそれ食っとけ。他の店のよりぜってーうめーから」

影浦くんの視線は鉄板の上に向けられたままで私の方をちらりとも見なかった。影浦くんって怖いイメージしかなかったけど意外と優しいんだなあと思いながら「ありがとう」と言うと、それまで大人しかった影浦くんが突然「むずむずすっからそんな目で見んな!」と言ってきて、私は慌てて目の前の綺麗なお好み焼きに視線を落とした。
優しいところがあるのは分かったけど、やっぱり影浦くんは怖いと思う。

title/サンタナインの街角で


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