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■ Silly Vampire

※デフォルト名が本編ヒロインと同じですが全くの別人です。本編ヒロインは出てきませんし、この話で登場するヒロインはこれっきりなので名前変換は作りませんでした。










「はあっ……はあっ……く、そ」

胸に刺さったナイフを引き抜けば、そこからは止まることを知らない量の血液がどくどくと流れ出した。さすがにこの量の出血では屋敷には戻れないだろう。早く血を飲まないと本気でヤバイ。こんなところで死ねるか、と悪態をつこうと口を開けば悪態の代わりに血が飛び出した。
頭がくらくらする。無様に倒れるのだけは避けたくて、何かに掴まろうと咄嗟に手を伸ばせばオレの身体は"誰か"に支えられた。

「まこちゃん」

顔を上げたくても身体に力が入らない。よく知った甘い匂いに包み込まれて安心したオレの唇に柔らかい何かが触れた、刹那。オレを狂わせるほどの甘い液体が口の中を満たした。





「ん、」

目を開けばそこにはよく知った天井が広がっていた。
いつの間に帰って来たんだか。カーテンの隙間から漏れる光にまだ昼間だと判断して寝返りを打つ。まあいい。もう一眠りして、あとでかえでに聞こう。
あ、なんか踏んだ。

「う…」
「!!?」

寝返りを打った際にオレの身体の下敷きになった何かが漏らした呻き声に、オレは慌てて起き上がった。

「何でお前がここで寝てんだよ!」

我が物顔でオレの枕に顔を摺り寄せるかえでを叩き起こす。ベッドから蹴落とさなかっただけ感謝してほしいものだ。

「何なのまこちゃん…。まだお昼、」
「何なのはお前だっつーのバァカ!自分の部屋に戻れ!!」
「ひどい…。征ちゃんに返り討ちにされた誰かさんをここまで連れて帰ってきてあげたのに」

目を擦りながらそうぼやくかえでに口の端が引き攣るのが自分でも分かる。そんなオレにお構いなしに起き上がったかえでは、にこりと笑って首を傾げた。

「また征ちゃんに勝てなかったんだ?」
「てんめえ…」
「飽きないよねえ、まこちゃんも。どんな手を使ったって征ちゃんには勝てないのに」

くすくすと笑うかえでを黙らせるためにおしゃべりな口を自分のそれで塞げば、かえでは驚いたような顔をしてそれを受け入れた。嫌がる素振りくらい見せればいいのに。

「ふはっ、好きでもない男にキスされてんだぜ?何つー顔してんだよ」
「……もういい、寝る」
「っ、だから自分の部屋に戻れっつーの!」

オレの怒鳴り声をものともせず再び横になったかえではこちらに背を向けていて、今コイツがどんな顔をしているのかは分からなかった。


***


『かえでは花宮が好きなんだね』

征ちゃんはそう言って可笑しそうに笑った。まこちゃんと征ちゃんがあんまり仲良くないのを知っていた私は何と返事をしたらいいのか分からなくて、小さく頷くことしかできなかった。

『花宮のどこがいいのか分からないな』
『まこちゃんは意地悪ばっかり言うけど、たまーに優しいんだよ』
『そんなことを言うのはかえでだけだよ』

クスクスと笑う征ちゃんは同じ子どもとは思えないほど綺麗だった。まこちゃんの人をバカにしたような笑い方とは大違いだ。
自分でもよく分からない。どうして優しくて綺麗な征ちゃんじゃなくて、意地悪なまこちゃんの方が好きなんだろう。

『私だって、征ちゃんがどうして人間が好きなのか分からない』
『吸血鬼が人間を知ろうとしないだけさ。彼らは面白い生き物だよ』
『そんなこと言うの、征ちゃんだけだよ』

同じような言葉を二人で言い合って、笑う。私と征ちゃんは友達。それ以上でもそれ以下でもなかった。だけどまこちゃんはそうは思わなかったらしい。
まこちゃんは私が征ちゃんのことが好きだと勘違いしていた。

私と征ちゃんが一緒にいるとまこちゃんは不機嫌そうな顔で邪魔をした。征ちゃんへの嫌がらせの回数が日を追うごとに増えた。
私に、征ちゃんと自分のどちらが好きなのかとくだらない質問をするようになった。私が好きなのはまこちゃんだというのに。
そしてその勘違いは今も続いている。

「……バカなまこちゃん」

まこちゃんが私のことを好いているということはとっくの昔に気付いていた。あれだけあからさまな態度を取られれば嫌でも気付くだろう。
まこちゃん本人はバレてないと思っているみたいだけど。私も貴方のことが好きだと、そう告げたら彼はどんな顔をするだろう。

「教えてなんて、あげないけど」

もうしばらく勘違いしたままでもいいかもしれない。ようやく長年恋焦がれていた人間の女の子を手に入れて幸せ真っ盛りな征ちゃんには悪いけれど、征ちゃんに勝てば私に好きになってもらえると思い込んでいる愚かな誰かさんがどうしようもなく愛しいのだ。

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