■ 期限付きの束縛
「そんなにがっついたらはしたないですよ」
「ん…」
呆れながら嗜めるボクの声に気のない返事を返した赤司くんは、口の中に流し込んだ錠剤をがりがりと噛み砕いた。
「おいしいものではないのに…よくそんなにがっつけますね」
「…仕方ないだろう。どうしたって飢えるんだ」
口直しにグラスに注いだ水を一気に飲み干した赤司くんが息を吐きながら呟く。
吸血鬼にとっての好きな異性への吸血衝動は人間で言うところの求愛行動なのだから抑えるのはかなりきつい。いくら血液と同じ成分が含まれているとは言え、それだけで理性を保とうというのだから赤司くんの精神力は尊敬に値する。
「そういえば最近、かえでさんと一緒にいるところをあまり見かけませんが」
「……」
「お互い気まずいのは分かります。でも約束の一ヵ月が終わるまであと二週間もないんですよ?このままでいいんですか?」
「……いい。いいんだ、もう」
赤司くんらしくない返答だった。かえでさんを手に入れるためなら何だってするのだと豪語していた赤司くんは見当たらない。十年以上彼女に恋い焦がれていたはずなのに、彼女が欲しかったから村から誘拐してきたはずなのに。
どうして今更、かえでさんを諦めるような発言ができるのだろう。
「……お前には言っておこうかな。かえではもちろん、他の誰にも言うなよ」
ベッドの上に散らばったかえでさんからの手紙を優しく撫でながら赤司くんは寂しそうに笑う。赤司くん宛てではない、赤司くんへの手紙。すれ違いを止める術など赤司くんならばいくらでも持っているはずなのに、彼は全てを諦めてしまったかのように何もしない。
「この一ヵ月が終わったら、あの子は……かえでは、村に返してあげようと思う」
一通の手紙をベッドの上から拾いあげた赤司くんは、その手紙に小さなキスを落とした。
赤司くんの膝の上には例のウサギのぬいぐるみが、まるでかえでさんの代わりのように鎮座していた。
title/サンタナインの街角で
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