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▼ その一言が欲しかった

オレの彼女は淡白な子だ。他の女の子たちみたいに媚びることもないし記念日記念日うるさくないし、おまけに嫉妬なんて全然しない。最初は面倒臭くなくていいな、なんて思っていたけれど、あまりにもあっさりしていたなまえっちはオレからせがまれるまでオレの誕生日を祝う気もなかったのだった。「普通彼氏の誕生日くらい祝うものっスよ!」としつこいオレに煩わしそうな顔をしたなまえっちは、誕生日を祝う代わりにと一つだけ条件を突き付けた。

「ファンの子たちからなーんにも貰わなかったらね」

何を言い出すかと思えばそんなことか。そんなの全然余裕っスよ!だって全部断ればいいんでしょ?

「黄瀬くんもうすぐ誕生日だねー。何か欲しいものある?」
「えっと、今年は何にもいらないっス!ホントごめん!!」

全部、断れば………。



「あーあ、やっぱりこうなった」
「違うんス!これは不可抗力ってヤツで…!」

呆れたような顔をするなまえっちの脚に縋り付けば、なまえっちはうざったそうに鞄でオレの頭を叩いた。痛い……けど離すもんか。なまえっちに祝ってほしくてここ数日は女の子を避けまくったし、プレゼントの話を振られてもいらないと断り続けた。それなのにこれはあんまりっスよ神様。

「仕方ないじゃないっスかー!靴箱とかロッカーとか机の中とかに突っ込まれてたらどうしようもないし!」
「約束は約束だから諦めなよ」
「嫌っス!せめて一言!一言でいいから"涼太くん誕生日おめでとう"って言って!!」
「リョータクンオ誕生日オメデトー」
「棒読みツライ!」

オレがファンの子からの誕生日プレゼントを断っているということは女子の中でだいぶ有名になっていたらしい。それを聞いて諦めてくれる子もいれば、「そんなのカンケーないし!」と靴箱やらロッカーやらにプレゼントを押し込んだ子たちもいた。もちろんそれはオレの本意ではないのだが送り主が分からないのだからどうしようもない。なまえっちにバレる前に全部捨ててしまおうと意気込んでいたのにさっくりと見つかってしまったのだった。

「大体さー、何でそこまでして私に祝ってほしいわけ?私じゃなくても女の子はたくさんいるでしょ?」
「そうっスけど!でも大切な彼女は一人しかいないじゃないっスか!」

オレが必死に訴えてもなまえっちは適当にあしらうだけで相手にもしてくれない。
あれ、なまえっちってホントにオレのこと好きなのかな。もしかして好きなのってオレだけかな。そりゃあ告白したのだってオレからだし、「お試しでもいいんで付き合ってください!」とか言っちゃったからなまえっち的にはお友達の延長なのかもしれないけど。あれ、自分で言ってて何だか悲しくなってきた。

「うう……何で彼女に誕生日を祝ってもらうのにこんなに必死にならなくちゃいけないんスかあ……」

一言。たった一言でよかったのだ。大好きななまえっちに一言「おめでとう」って、そう言って欲しかっただけなのに。あわよくば笑顔付きで。
なまえっちの脚にしがみついたまましょぼくれていると、しばらく無言だったなまえっちが深い溜め息を吐く。肩を揺らして俯くオレに、なまえっちがぽつりと呟いた。

「私は嫉妬深いからね」

その他大勢と一緒にされたくないの。
そう呟いたなまえっちは耳まで真っ赤にしていて、初めて見る反応にオレはぽかーんと彼女を見上げた。

「涼太の周りにはかわいい子がたくさんいるから、その子たちから祝ってもらえるなら私が祝わなくたっていいじゃんって思って」
「そ、そんなこと……!」
「これはただの私のワガママだから聞かなかったことにして」

そう言って小さな紙をオレの額に思い切り押し付けたなまえっちは、オレが怯んだ隙に廊下の向こうへと駆けて行ってしまった。

「………っ」

廊下に座り込んだまま膝の上に落ちたメッセージカードを見る。"Happy birthday"と書かれたそれに自然と口元が緩んだオレは、廊下の向こうに消えたなまえを追いかけるために立ち上がった。
どうせなら直接言ってほしいな、なんてね。



↓おまけ

「なまえっち!カードすっごく嬉しかったけど直接言ってほしいっス!!」
「その山のようなプレゼントをどうにかできたらね」
「どうにか……うーん……じゃあ今から捨てて来るっス!」
「捨てる?何言ってんの、ダメに決まってるじゃん」
「えっ」
「全部送り主に返してきてよ。心当たりくらいあるでしょ?」

このあとたまたま通りかかった赤司っちに泣き付いて送り主を探してもらったけれど、代わりに今日の練習量は3倍にすると言われた。オレ今日誕生日なのに……。

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