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「#エロ」のBL小説を読む
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もう会うことはないと思っていた。
緑間がオレにあれだけ嫌悪感を表していたし、妹の方もオレが怖くて怖くて仕方がないようだったし。オレだってあそこまで拒絶されて、それでも自分から会いに行こうなんて思ってもいなかった。それなのに。

「あ……あの、」

おいおい緑間、お前重度のシスコンなんだろ?妹がかわいくて仕方がないんだろ?なのに何でこんなに怖がってる妹をわざわざ連れて来たんだよかわいそうだろうが。スカートの裾を握りしめてガタガタと震える緑間妹をぼんやりと眺めながら、怖がらせないような言葉を探す。結果、オレの口からこぼれたのは無難な言葉だった。

「どうした?」
「えっ……。し、真ちゃんやっぱり無理……!」
「早くしろ。いつまでもぐずぐずしているようならオレは教室に戻るのだよ」
「真ちゃああああん!!」

何だこれ、兄妹コントでも見せるためにわざわざオレに会いに来たのか?緑間兄妹の真意が読めずに首を傾げるオレを視界の隅に捉えたらしい緑間妹がぴしりと固まる。それから緑間の後ろに隠れようとした緑間妹はそれよりも先に緑間から肩をガシリと掴まれて、オレと向き合うように固定されてしまった。
みるみるうちに目に涙を溜める緑間妹がかわいそうで仕方がない。

「わっ…わたし、緑間しずくと申します!」
「…お、おう」
「それで、えっと…!クッキーおいしかったですありがとうございました!」

深く頭を下げた緑間妹はおそらくそれだけを言いに来たのだろう。オレが何も言わないからか、その姿勢のまま微動だにしなくなってしまった。窺うように緑間を見たがヤツは無表情のままで何も言わない。この場合オレはどうしたらいいのだろうか。
とりあえずオレの頭が叩き出した行動は、未だに頭を下げ続けている緑間妹の頭を怖がらせないようにできるだけ優しく撫でてやることだった。

「こっちこそ、わざわざありがとな」

怖がらせないように、怖がらせないように。膝を折り腰を屈め、できるだけ視線の高さを合わせるようにしてそう返す。目が合った瞬間逃げられるか大泣きされるかと思ったが、予想に反して緑間妹は大人しくされるがままになっていた。が。
それまで大人しかった緑間が急変した。

「もういいだろうしずく、帰るのだよ」
「……あ?」

オレの手を振り払った緑間が妹の手を掴んで引きずるように歩き出す。緑間の失礼千万な行為に顔を引きつらせるオレの肩を、どうやら一部始終を見ていたらしい大坪が諌めるように叩いた。

「そんな顔で見ているとまた緑間妹に怖がられるぞ」
「……っ」

とりあえず緑間は今日の部活で絶対ぼこる。そう決めて緑間兄妹に背を向けたオレは知らなかった。
廊下を曲がる直前、緑間妹がオレを振り返ったことに。