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その日宮地はキレていた。言わずもがな、おは朝信者緑間のせいである。部活を始める直前になってラッキーアイテムを教室に置いてきてしまったから取りに行きたいと言い出した緑間と、ふざけるな今から部活始めんだぞと怒る宮地。そうして揉めに揉めた結果、外周が終わってから取りに行く、ということで話が纏まった。
緑間と宮地が衝突することなどよくあることだし、その後宮地の機嫌が悪いままであることもいつものことだ。だからと言えばそれは最早言い訳にしかならないが、そのときのオレたちはそこまで重大なことだと認識していなかった。そのうち機嫌を直すだろうから放っておこう。それがそもそもの間違いだったのかもしれない。

「はあ!?知るかふざけんなつーか今部活中なんだよ空気読め轢き殺すぞ!!」

宮地の罵声が体育館に響きわたる。また緑間が何かやらかしたか。そう思って振り返ればそこにいたのは緑間ではなく、ウサギのぬいぐるみを抱えた小さな女子生徒だった。

「おい宮地…なにもそんなに大声で怒鳴らなくても、」

緑間を怒鳴り付けるような勢いで女子生徒に怒鳴った宮地を宥めるように二人に近付く。目に涙をいっぱい溜めてガタガタと震える女子生徒を見てさすがの宮地も怯んだらしい。あ、とかう、とか口ごもる宮地と、宮地が何かを口にしようとするたびに肩を揺らしウサギを抱く腕に力を入れる女子生徒。この状況をどう打開しようかと頭を抱えたそのときだった。

「しずく?」

ちょうど外周から戻ってきたらしい緑間が驚いたような声を上げる。その声に誰よりも早く反応した女子生徒はくるりとスカートを翻して緑間の元に駆けて行った。そして。

「しんちゃん…!」
「「は……?」」

緑間に抱きついて本格的に泣き始めた女子生徒の頭をあやすように撫でる緑間の顔は、今まで見てきた中で一番柔らかく見えた。どうやらただならぬ関係らしい。困惑するオレたちの隣で最早見慣れたものを見るかのような反応をしていた高尾が、衝撃的な言葉を口にした。

「あの子、緑間の妹っスよ」

おそらくその場にいた全員が同じことを思っただろう。
あの緑間の妹…だと…!?

「アイツ重度のシスコンなんでー。しずくちゃん泣かせたヤツ、たぶん今日の1on1でボッコボコにされますよ!」

ドンマイ!と言わんばかりの笑顔を浮かべて宮地の肩に手を置いた高尾にぶちギレてさらに緑間妹を怖がらせた宮地。とりあえず宮地がこの場にいると話が進まないと、オレは宮地を体育館から追い出した。


***


最早言い訳にしかならないが、オレはあのとき機嫌が悪かった。緑間という名前を聞いて不快感を覚えるくらいにはイライラしていた。だからと言って許されることではないのは重々承知だし、思わず八つ当たりのように年下の、しかも自分よりずっと小さな女子を怒鳴り付けたのは自分でも許されることではないと反省している。それでもだ。

「おい」
「ひっ…」

だけどここまで怖がらなくてもいいんじゃねえか?話しかけるたびに肩を揺らし目を潤ませ、腕の中のウサギのぬいぐるみをきつく抱き締める緑間妹を見てげんなりとそう思った。

「宮地さーん、いい加減謝らないと。緑間の目が据わってますよ」
「うっせーな、分かってるっつーの!」
「しずく、あんな人でなしのことなど気にすることはないのだよ」
「おい聞こえてんぞ緑間ぁ!」
「ひぐっ」
「あーもー、お前のことじゃねえから!一々ビビりやがって轢きころ、」

はっとして口をつぐんだが遅かった。緑間は自身にすがり付いてぐすぐすと泣き始めた妹の頭を撫で優しい言葉をかけながらも、こちらを鋭く睨み付けている。
……ああもう何だこれ。滅茶苦茶イライラする。
苛立ちをぶつけるようにゴールにボールを叩き付けると、ゴールは派手な音を立てて軋んだ。





「あれ?宮地さん、今日は残らないんスか?」
「あ?……ああ、ちょっとな」
「緑間妹のことを気にして残らないんだったら大丈夫だぞ。緑間がもう連れて帰ったし」
「珍しいっスよねー、アイツが残らずにさっさと帰るだなんて。どんだけ妹のこと好きなんだか……って、宮地さんマジで帰るんスか?」
「……今日は寄りたいところがあるからな」

そういえばこんな時間に帰るのは久しぶりかもしれない。校門を出てすぐの、普段はあまり使わないバス停でバスを待ちながら携帯を取り出した。

「……っと、駅前の……」

この行為には意味など何もない。ただオレが自己満足でやりたがっているだけで、強いて言うなら……そう。エース様の機嫌を直さなければ今後に支障が出るからだ。
だからこれからオレが取る行為はちょっとした下心が含まれているだけで、他には何もないのである。