今日も僕は待っている。
だだっ広い部屋で、豪華な家具に囲まれて、だけど僕はそんなものには何も興味なんてなくて。
ただただ、あなたを待っている。
今日のお昼、従者が告げた。
夜に国王様がお越しになります、と。
僕は長い間お風呂に入って、丹念に体を磨き上げて、ベッドの脇にお香を焚いた。
この前、レオ様がこの香りを気に入っていたから、高価だけれどおねだりして買ってもらっておいた。
僕は頼りない薄い生地のガウンだけを羽織った格好で、ベッドにゆるりと寝転ぶ。
うつぶせになって、時が過ぎるのをひたすら待っていると、無遠慮に扉が開いた。
うつぶせのまま、くるりと首を扉にやると、そこには愛しい想い人がいた。
「リュカ」
低い声が宝物を愛でるみたいに優しく奏でた。
「レオ様、来てくれてありがとうございます」
慌てて身体を起こして告げる。
きっと僕の頬は赤くなっていることだろう。
レオ様はベッドに座る僕に近寄って、ベッドの縁に腰掛けると、僕の頬を優しく撫でた。
「なんだ。おかえりとは言ってくれないのか」
「あ、お、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。リュカ。会いたかったぞ」
僕は感極まって、レオ様に近寄る。
抱きつくのは勇気がいるから、額を大きな胸に擦り付けるようにして甘えた。
レオ様がそんな僕の背中を優しく引き寄せてくれる。
胸の中に包まれて、ホッと息を吐く。
好き。好き。
好きでたまらない。
「レオ様、今日も可愛がってください」
「あぁ。相変わらずお前はどんな女よりも美しいな」
レオ様がまじまじと僕を検分するように見て告げる。
率直な言葉に顔に熱がのぼるのが分かった。
レオ様のハーレムには国中から集められた美しい女性がいっぱいいる。
その中で、1人だけ男の僕は、この中東の国の生まれじゃない。
ロシアの血を引く僕は肌も真っ白で、目も水のような色をしている。
レオ様はたまにそんな僕の瞳を宝石のようだと褒めてくれる。
「明日もお前のところに来ようか」
レオ様が僕のガウンの紐をほどいている。
するりと簡単にほどけたそれを見ていた僕は、慌てて顔を上げた。
「本当ですか?」
「ああ。最近第3王子が産まれた。これで俺の役目も済んだだろう」
「おめでとうございます。良かったですね」
「男のお前ばかり可愛がると周りがうるさくてな。でも、男を3人も作ればもう文句も言われないだろう」
嬉しくて、涙が溢れてくる。
子供の産めない男の僕はハーレムでは厄介者だ。
「嬉しいか? リュカ」
「はい、すごく…嬉しいです。レオ様」
涙がぽろりと頬を伝った。
レオ様が僕の頬を舌で舐めとると、ぞくぞくと背中が粟立った。
「お前は泣き顔まで美しいな」
ガウンを引っかけただけの状態でベッドに押し倒された。
レオ様が上から覆いかぶさってくる。
「んっ……、ん、ふ、……んぅ」
「……ん。俺のリュカ」
唇を合わせる。
探るようにゆっくり舌が差し込まれた。
下唇を肉厚な舌で舐められて、ビクンと身体が跳ねた。
ちゅ、くちゅ。
控えめな水音が広い部屋に消える。
おずおずと舌を差し出すと、レオ様に簡単にさらわれ、絡められた。
「ふぅ、ん、……んっ、ん……」
口内を自由に犯されて、思わず息が漏れる。
「レオ様、ん、ん、すき」
レオ様が僕にキスを落としながら、手を体に這わせる。
小さな胸の果実に触れられると、身体に電流が走ったみたいに感じる。
「やっ」
「嫌じゃないだろう。どんどん尖ってくるぞ」
乳首に浅黒い手が触れる。
小さなそれをひねるように抓まれると、思わず顎が上がった。
「あ、あ、そこあんまりしちゃ、……んぅ」
「リュカ、もっと声聞かせろ」
レオ様はそう命令すると、身体の位置を移動して、いつの間にか僕の腰の下へと移動していた。
すでに勃ち上がっていた僕のものの先端を刺激するように唇で愛撫した。
その柔らかい感触に腰がビクンと跳ねる。
それと同時に驚きで目を見開いた。
「レ、レオ様! そんな事しちゃだめです! あ、あ、んっ!」
舌でずるりと裏筋を舐め上げられると、思わず高い声が上がった。
「今日はお前の声が聞きたい気分だから構わない」
「でも、レオ様はそんな事しなくたって……」
「俺に可愛がらせてくれないのか?」
そんな風に意地悪く言われてしまうともう何も言えない。
黙ってふるふると首を横に振る僕に、レオ様は満足げに頷いた。
それからまたそこへの愛撫は再開され、僕はあっけなく頂点に上りつめそうになる。
「あ、あぁ! だめ、もういっちゃう……っ」
「リュカ。言え」
「あ、あ、レオ様、……イかせてください……っ」
レオ様は僕の言葉を聞くと、口淫を強めて、じゅぽじゅぽと卑猥な音を立てた。
「ああっ、イく、イく、レオさまぁぁ! あぁぁん!」
ビクビクと身体が跳ねる。
レオ様は僕の精液を口で受け止めると、それをゆっくり手の上に出して、流れるような作業で僕のアナルに塗りつけた。
「ん……っ」
イったばかりで敏感になった体は少しの刺激でも反応する。
気持ちのいいところももう知り尽くされている。
あっという間にとろとろにほぐされた体は、レオ様の指が出て行くと、何かを求めるようにひくひくと震えた。
ひんやりとした喪失感に、思わずレオ様を潤んだ瞳で見つめる。
「欲しいのか」
「……はい、レオ様を下さい」
「俺もお前が欲しい。朝からお前を抱きたくて仕方がなかった」
レオ様は自嘲するように苦笑いを零す。
胸がきゅうっと疼いて、思わずレオ様の首に両腕を回した。
「お前は俺を馬鹿にする」
「やっ……嬉しい……」
レオ様が熱い切っ先を僕のアナルに宛がった。
ぐっと押しつけられると、その大きさと熱に圧倒されそうになる。
息を呑んで見守ると、ゆっくりと挿入してきた。
「あ、あ、ああああ、おっきい。あ、ああ、これ。これが欲しかったです」
「ん……、俺もだ。リュカ。可愛い俺のリュカ」
レオ様は繰り言のように僕の名前を呼び、腰を揺すった。
「あぁん! あっ、はぁ、はぁ……ぁん!」
僕の口からはまるで女みたいな高い声が漏れる。
女になりたいわけじゃない。恥ずかしさに唇を噛んだけれど、高い嬌声はレオ様の気を良くしたようだった。
「お前は自分が王宮でなんと言われているか、知ってるか……」
掠れた声のレオ様は僕を熱い瞳で見下ろす。
額に汗が浮かんでいる。
その生々しい姿にたまらなくときめく。
「なに、し、知らない。あ、あ、……そこ、だめぇ!」
「傾国の美男だとよ」
「え、あ、……なんて……やっ、やっ」
「ふん。クレオパトラじゃあるまいしな。……はぁ、はぁ」
「クレ……?」
「いい。お前は俺にだけその可愛い顔を見せればいいのだ。他の誰にもお前を触れさせない」
「う、あぁぁん! あ、あ、はげし、レオ様、あ、キス、して……」
言葉をまるで理解できない僕に、レオ様は仕方ないような顔をした。
腰の突きが激しくなって、終わりを近いことを悟る。
一度出した僕は少しは耐えられたけど、レオ様の眉を寄った顔を見ちゃうとたまらなくなって、あっという間にのぼりつめそうになる。
キスをねだると、レオ様は言うとおり、唇を重ねてくれた。
「リュカ。口を開け」
言うとおりに口を大きく開ける。
そこに上からレオ様が唾液を落としてきて、それを舌で迎え入れた。
「あ、あ、あ」
あまりの官能に身体が震える。
その瞬間、レオ様に舌を強引にからめ捕られて、身体がビクビクと跳ねた。
「あ、いっちゃう! いっちゃう! レオ様も……っ、僕の中に出して?」
「お前の奥に出すぞ。受け止めろ」
「あああー! あ、イくぅうううう!」
「くぅっ……、うあ……」
レオ様が腰を突き出して、僕の奥をズンと突くと、ビュビュッと奥に温かい精液を感じる。
僕はそれを意識朦朧の中で確認しながら、自分も深い絶頂の渦にのみ込まれた。
逢瀬が終わると、静かな気配が部屋に流れた。
レオ様は僕を腕枕しながら、僕の髪を自由にいじっている。
僕は先ほどの言葉を思い出していた。
レオ様が明日も来てくれる。
それだけで僕のちっぽけなプライドは満たされた。
優越と独占欲が溢れてくる。
嬉しい。
だけど、本当はさっき。たまらなく苦しかった。
僕もレオ様の子供が産めたらよかった。
当たり前のようにレオ様の子供を産める彼女たちが憎いくらいにうらやましかった。
そうしたら、彼がいつか僕に飽きても、彼の名残を大事にして過ごすのに。
僕にはそんなものは与えられない。
彼に打ち捨てられるその日を待つことしかできない。
「レオ様。明日もきっと来て下さいね」
「ん? 俺が約束を破ったことがあったか。可愛いリュカ」
僕は黙って首を振って、レオ様の胸に甘えるようにすり寄った。
レオ様に頼めば、犬でも猫でもペットとして僕にプレゼントしてくれるだろう。
レオ様に名前を付けてもらえば、僕はそれで心が休まるかもしれない。
「レオ様。大好き」
だけど。
何もいらない。何も。
子供を産むこともできない可哀想な僕でしょう。
広い部屋で1人暮らしている僕は寂しそうでしょう。
優しいレオ様はそんな僕をきっと見放さない。
「リュカ。日中は寂しくないか?」
「はい。レオ様が来てくれる日は寂しくありません。だから明日も明後日も来て」
「甘え上手だな、お前は」
レオ様が猫をくすぐるみたいに僕の顎を撫でた。
寂しいなんて感情は大したことではない。
束の間、天国のような幸せに浸るために、僕は1日孤独に暮らすのだ。
◇続きは拍手にて