「あの、火傷するから脱いでください」
「はぁ? 別にいい」
「だめですよ! 火傷したら大変。早く」
会長はうっとうしそうにするだけで全然脱いでくれる気配がない。
僕はしびれを切らして、会長のベルトに手を掛けて、ズボンをするりと脱がした。
足までやはりコーヒーに濡れていて、そこを濡らしたタオルでふき取っていく。
「お前……、もうやめろ。いいから」
「でも、僕のせいですし」
「いい。お前がぬるいコーヒー持ってくるから別に火傷もしてない」
「あ、ここも濡れてる」
会長が僕を押しのけようとするのをかいくぐって、太ももと太ももの間にタオルを滑らした。
ごしごしと拭いていく。
僕は会長様にコーヒーを零して、テンパっていて、今の状況のおかしさに気付いていなかったのだ。
今、会長は制服のカッターシャツとボクサーパンツ1枚のまま、デスクチェアーに腰かけている。
僕はそこでひざまずいて、タオルで必死に内ももを拭いているのだ。
なんてハレンチな!
普段の僕なら鼻血でも拭いていただろうけど、内心焦りまくっている僕は気付かない。
西園寺財閥恐るべし!
「もう、そこはいい」
「あ、はい、すみません」
内ももについたコーヒーを綺麗に拭って、顔を上げる。
僕が見上げる形で、至近距離で目が合った。
ほわわわわ、やっぱりイケメンだなあ。まじまじと見る。眼福。
なんでこんなに綺麗な配置で宝石みたいなパーツが並んでいるのか。
神々が時間を掛けてお作りしたとしか言えないような綺麗な顔。
思わず陶器のような肌に手を伸ばしてみたい気持ちになったけど、慌てて引っ込めた。
ごくりと唾を飲み込んで我慢する。
「会長、その、ごめんなさい。僕、」
ひざまずいたまま、じっと会長の瞳を見上げる。
コーヒーを零した上に、勝手にズボンまで脱がしてしまった。
これはいよいよお家への圧力の危機だ。そんなことになったら、両親が悲しむのに。
涙が込みあがってきた。
その瞳のまま、会長を見ていると、会長が一度視線を彷徨わせてからまた僕を見下ろした。
じっと視線が合う。
全然逸らさない会長。
僕はなんだか恥ずかしくなって、視線を下げると、見てはいけないものが視界に入った。