深海くんはナチュラル男たらし
「どうした? 嫌な夢でも見たのか」

「……深海くん」

「なんだ、お前。泣いてんのか?」

深海くんがTシャツにスエットパンツの格好で部屋の中に入ってくる。
ベッドに腰掛けると、僕の頬を親指ですっと撫でた。

深海くんに嫌われたら死んでしまいたい。ていうか今すぐ穴という穴に入りたい。
あ、いや、もちろんハレンチな穴じゃなくてよ?

そんな事を思っているとなぜか泣けてきて、枕を一層ぎゅっと握りしめる。
深海くんの反応が怖い。
一言でも軽蔑したような言葉を言われたら、僕のガラスのハートは粉々に砕け散っちゃうよ。

僕がいつまでもしくしくと泣くものだから、深海くんが僕の顔をじっと覗き込んでくる。


「おいおい、まじで怖い夢見たのかよ。変な薬飲んだから夢見が悪かったんだろう。泣くな」

深海くんがベッドに身体を乗り上げると、僕の背中を引き寄せて抱きしめてくれた。


「え……?」

背中に回された腕が優しい。
以前ならいくら僕が怖い夢を見たってこんな風にはしてくれなかったに違いない。


「深海くん、」

「ん?」

「あの、……、その、……僕の事気持ち悪くないの?」

僕がぽつりと言うと、深海くんは腕を離して、至近距離で僕をじっと見た。

彼の鋭い瞳で見られると、穴でも開きそうで、あ、ハレンチな穴じゃないよ。
なんだか居たたまれない。

「気持ち悪くねぇよ。まぁ、自分が男もいけるんだなって事にはびっくりしたけど、だからって他の男を抱きたいとは思わねぇからなぁ」

「……うん」

「でも、お前の事は可愛いと思ってる」


胸がぎゅうっと絞られる。
僕をこんな風にできるのはやっぱり深海くんだけで、僕はこの人の事が好きなんだなぁと改めて実感する。


「深海くん、そんな事、ベッドの上で低音ボイスで言われたら、巡惚れちゃう!」

照れくさくなって、ハイテンションで返した僕に深海くんが絶対零度の視線を向けてくる。
ああ、それそれ。
深海くんはそうでなくっちゃ。


「お前なぁ。……まぁいいか。元気なったなら飯行こうぜ。食堂閉まっちまうから」

「あ、うん。深海くん、今日はその、色々ありがとう」

「あんまらしくねぇ事言うんじゃねぇ」

僕の髪をくしゃくしゃにして、深海くんはさっさと部屋を出て行った。
ぼうっと余韻に浸る。


「巡! おせぇ!」

「は、はい! え、今巡って呼んだ? 初めてじゃない? 初めてだよ!深海くん!」

「うっせぇんだよ。いいからさっさと来い」

「はーい!」


お父さん、お母さん。
僕は今日も元気です!
好きな人が出来ました。男です!
僕は腐男子でもあり、ゲイでもあるという、おいしいポジションになりました。

そんな事より、エンジェルが攻めだった事は僕の心を激しく傷つけました。
傷はえぐれるばかりで、止めるすべを知りません。
あまりにも辛いので、僕はその部分だけ記憶をなくすことにしました。


「深海くん! 待ってー! おいてかないで!」

「とろとろすんな」


お父さん、お母さん。
何はともあれ、僕は今日も元気です!


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bkm
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