きゃあきゃあ悶えながら歩いていると、人にぶつかった。
ドンと押されて、尻餅をつく。
ぎりぎり170に届かない僕の身体は簡単に押し返された。
「いてて」
「すまなかった。大丈夫か?」
声が聞こえて思わず顔を上げる。
同時に大きな手が伸びてきて、条件反射で手を握って立ち上がった。
「君が転入生かな?」
「あ、はい。綾瀬巡……です」
……もしかして、副会長?
だって笑顔がとってもうさんくさいもの!
「副会長、ですか?」
「ん? なんで分かったの? すごいね」
「あ、う」
笑顔が胡散臭いからとは、僕には到底言えない!
もじもじして顔が赤くなっていたらしい僕の頬を副会長は優しく撫でる。
「緊張してるのかな? 大丈夫だよ。この学園はみんな優しいし、僕もついてるから」
「はい。ありがとうございます」
副会長は僕の手を引いて歩き出した。
手を引かれなくたって着いていけるのに。
何度か僕を振り返る副会長は、僕が着いてきているのを確認すると、そのたびににこりと笑う。
なんかこの人、笑顔が胡散臭いというより、この優しさが怪しい気がする。
優しさで騙された子を傀儡人形にでもする気だろう!
僕は決して騙されないよ!
警戒心を持ったまま、歩く。
「ぼーっとしてて放っておけない」とたまに悪口を言われることはあるけど、僕は至って普通だし、人並み以上に警戒心は持っていると自負している!
だってそうじゃないと、腐った男子としてウォッチングだってできやしないのだから!
そうだ。気になっていたことを聞いてもいいだろうか。
どうしよう。
でもいきなり副会長に聞いたら変に思われるかな。
うずうずしながら困っていると、僕を振り返った副会長は足を止めて僕を見る。
「ん? どうしたの? おしっこ?」
「ち、ちが。」
「うん。じゃあ、なに?」
サラサラ髪の黒縁メガネのイケメンが、「おしっこ」だなんて単語を出すから、思わずドキッとする。
ああー、今の声、レコーダーに保存したかった!
いや、別に僕がリピートしたいってわけじゃないんだけど、念のためね。念のため。