彼は汚物の僕には目もくれず、黙って部屋に入ろうとする。
慌てて僕は彼について、扉を開けて部屋に入った。
後ろで鍵が自動的に閉まる。ジーという音を立てて。
さすが金持ち学園。ハイテクだなぁと思っていると、玄関で靴を脱いだ彼が般若みたいな顔でこっちを見てくる。
「勝手に入ってくんな。かす」
「か、かす? えー、かすって何のかすだろう。天かすだったらいいなー、耳かすとかそっち系は勘弁。天かす一択で…!」
ドンと壁を叩かれた。
威嚇されている。
壁にピタリと張り付いた僕は、様子を窺うように彼の顔を見上げた。
途中で途切れた眉は完全に吊り上っていて、怒っていらっしゃることが確認できた。
「ごめんなさいっ。僕、今日から編入で、ここの部屋になった綾瀬巡です。よろしくお願いしますっ」
頭を下げる。
挨拶が遅れていたことに今更ながら気付いた。
何も言わず部屋入ってきたら変に思うのも当たり前だよね。
しゅんとして、彼を見上げると、彼はさっきまでの険しい表情を少し落ち着かせて僕を見下ろした。
「なんだ、同室か。お前の部屋は右だから」
「あ、はい!」
「あとで食堂連れてってやるよ」
「え、あ、ありがとう」
深海くんはそのまま何も言わずに左の部屋に消えて行った。
意外に面倒見いい人!?
嬉しい!
怖いけど、まだまだ全然怖いけど、でも嬉しい!
右の部屋に入ると、広くて、ベッドはダブルベッドで、勉強机とデスクチェアーが置かれてある。
なるほど。
テレビを見るならリビングで見ろということか。