飴と鞭の抜群の使い手
深海くんも食堂の視線は気にならないようで、さっきまで武留が座っていた位置に腰掛ける。
向かい側に腰を下ろした僕は、チラリと深海くんを盗み見する。


やっぱりかっこいい。
さっきの台詞、録音しておけばよかった!くそう!

巡って呼んだよね?
聞き間違いじゃないよね?
超レアなんですけど!
たまにしか呼んでくれないからすっごく貴重なんですけど!


「ねぇ、深海くん」

「あん?」

ポテトサラダを口に運んでいる深海くんを見上げる。


「僕の事、ちょっとは好きだよね?」

「くだらねぇこと言ってないでさっさと飯食え」


ぶうう、と、口を尖らせた僕の不細工な顔を見て、深海くんが笑う。

今日はよく笑ってくれるなぁ。
嬉しい。幸せ。

「ねぇねぇ」

「なに」

「じゃあ、もう1回巡って呼んで」

じろっと深海くんが僕を睨んでくる。
やっぱだめらしい。

深海くんは本当に飴と鞭の使い方が上手だなぁ。

僕は諦めて、ナイフとフォークを手に持って、ステーキを切り分ける。


「巡、飯食ったら部屋でサッカーの試合見ようぜ」

「うん。……って、え!!!! 今! 深海くん!」

「うっせぇ。だから早く飯食え」

「ふぁい!」


僕はステーキを口いっぱいに放り込んで、案の定喉に詰まらせました。
「げほげほ」と咳込んでから、肉の繊維が引っかかって、「がはっ」としまいにはすごい声をあげた僕に、憐みの視線を深海くんは送ってくれました。
それでも急ぐ気持ちは伝わったはずです。

正直サッカーには何の興味もないけど。
日本代表の選手も1人か2人くらいしか知らないけど。オフサイドって何って話だけど。

眠くなったふりして、膝枕してもらうから、いいーんです!



「らぶだなぁ」

「ほんとばかだな、お前は」

深海くんが思いのほか優しい顔をしてくれたので、写真におさめて家宝にしたいなんてことをぼんやり思った。


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bkm
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