「エンジェ、あ、光くん。じゃあ、今日はこの辺で」
そそくさと逃げようとすると、光くんに思いのほか強い力で手首を掴まれた。
「待って。この前は薬盛ってごめんね。反省してて……。ごめん。巡くんがあんまり可愛いからってひどい事しちゃって」
光くんのガラス細工みたいな瞳にみるみるうちに涙が溜まっていく。
「あわわ!」
慌ててくしゃくしゃのハンカチを取り出して、光くんの頬に当てる。
「泣かないで!」
「ごめんね、本当に」
「ううん。僕、怒ってないから! 気にしないで!」
「本当? でもお詫びしないと気が済まない……。おいしいケーキが部屋にあるから一緒に食べないかな? 巡くんと食べたかったんだ」
光くんがしょげている。
平凡がエンジェルを泣かしているということで、売店ではじろじろと不躾な視線が僕へ投げかけられている。
ええ、ええ、そうでしょうとも!
僕だって、第3者なら光くんを泣かせた男をこてんぱんにしたいもの!
あう、しかし視線が痛い。
「わ、分かった。ありがとう、光くん。お部屋にお邪魔してもいい?」
「本当!? 嬉しい。お詫びにお会計は僕がするね」
「え、いや、それは申し訳ないです!」
「いいの」
光くんはやはり強い力で僕から買い物かごをひったくると、大量のお菓子を精算してしまった。
別に僕のお会計は全部理事長である叔父さんに流れるから、痛くもかゆくもないんだけど、光くんが払ってくれるなら甘えようか。
多分光くんも例にもれずに、お金持ちの子だろう。
あ、深海くんはどうなのかな。
深海くんへの質問リストにくわえて、今度聞くことにしよう。
「光くん、ありがとう」
「どうしたしまして。行こ?」
小首を傾げられた。
僕は150のダメージを受けた。
手を握って隣を歩かれた。もう僕は瀕死の重傷だ。