懇願するように見上げると、深海くんが僕を無表情で見下ろした。
いつもの絶対零度じゃない。
無表情はいつものそれよりも僕を震え上がらせた。
「し、深海くん。僕、深海くんに嫌われるのだけは嫌だよ。ごめん、許して」
とうとう大粒の涙がぼろりと頬を零れ落ちた。
「あー、泣くな」
深海くんはそう言って、僕をすっぽりと胸の中に入れるとすごく優しげに背中を撫でた。
子供をあやすように、僕が落ち着くようにと思いを込めるみたいに優しかった。
「……深海くん?」
「昼休みに副会長に連れられて行ったからな。所在は分かってたし、またどうせ振り回されてんだろうと思って、心配はそこまでしてなかったんだが」
「……うん」
「でも、いつまでも帰ってこないから。腹が立って寝れねぇし。徹夜して待ってたら、ばかなお前も少しは罪悪感でも持つだろうと思ってな」
胸の中から顔を出して、深海くんを見上げる。
背の高い彼の顔の表情を見るには見上げるしかなかったけど、彼は待っていたみたいに僕を見下ろしていた。
目が合う。
無表情じゃなかった。
何かたくさんの事を訴えたいような瞳で僕を見ていた。
「でも、ちょっとやりすぎた。泣かせるつもりはなかったんだ。悪い、ビビらせて」
「……深海くん」
好き。すき。スキ。
どうしよう。
頭の中がお花畑になったみたい。
好きしか言葉が出て来なくて、困って俯いた。
「深海くん、ずるいよ」
「ごめん。泣くとは思わなかったから」
「じゃなくて……っ」
深海くんはまだ僕を胸の中に入れたままだ。
以前の深海くんならこんな事絶対にしてくれなかった。
普通男同士ならこんなことしない。
彼はノンケで、僕は彼にとって手のかかる同室者だから。
それなのに、いつの間にこんな甘々な感じになってるの!
なんかあの日以来、薄々思っていたけど、深海くんって抱いた子みんなにこんな優しくするの!?
どうしよう!
巡、深海くんの過去の女の子たちを張り倒したいんだけど!?
どうしよう!胸がむかむかしてたまらないんだけど!
僕の事、好きでもないくせにこんなに庇護対象にしちゃって、馬鹿だなぁ。
僕がますます調子に乗るばっかりなのになぁ。