「え、千紘さまの誕生日、ですか?」
「そう。知らなかったか?」
「え、あ、はい。それは、私にもお祝いさせてくれますか?」
「え! 椎名もお祝いしてくれるのか?」
身を乗り出して尋ねる。
びっくりだ。
家族以外に祝ってもらった経験など無い。
安野たちや執事はおめでとうと言って、ケーキや豪華な食事を用意してくれるが、彼らは仕事だ。
父の会社の関係者たちから贈られてくる大量のプレゼントも、俺はほとんど会ったことのない人たちばかりだ。
きちんと祝ってくれるのは兄2人くらいのものだった。
でも今年は帝お兄様は学校でイベントがあり、どうしても抜けられないらしい。
両親が俺の誕生日にそばにいた記憶はあまりない。
寂しいともいつしか思わなくなった。
今年は皇馬お兄様と2人だけかと思っていたのに。
「椎名が一緒にいて祝ってくれるなら、それだけでいい。あ、でも、その日は日曜だ。お前は仕事が休みだろう。別に次の日で月曜でも構わないからな」
「いえ、お邪魔じゃなければ日曜に来てもいいですか?」
「あぁ、もちろん。今年の誕生日は今までで1番楽しみだ」
俺は喜びのあまり、椎名にぎゅっと抱きついた。
椎名は優しく抱き返してくれる。
トクトクとゆっくりした鼓動が聞こえてくる。
「あ、でも1つ心配がある」
俺がそう言うと、椎名は俺の顔を覗きこんできた。
「皇馬お兄様は綺麗なものが大好きなんだ。椎名に目を付けないかが心配だ」
「なんだ。そんなことですか。心配いりませんよ。皇馬様ほどの方は私などに興味を示しません。千紘さまくらいです」
そんなことはない。
俺が誇る兄2人にも負けない美しさを持つ椎名。
メイドたちに庭の王子様と呼ばれる彼に、皇馬お兄様が興味を持たなかったらいいけど。
強くて、綺麗で、圧倒的な権力を持つ皇馬お兄様が欲しいといえば、椎名を取られかねない。
それは阻止しなければ。
「椎名。プレゼントなどいらない。だから、誕生日は俺だけ見てて。よそ見しないで」
「ふふ、はい。可愛い。可愛すぎてどうにかしてしまいそうです」
椎名は俺の額にうっとりするようなキスを落とすと、俺に元通り服を着せた。
防寒着でもこもこになった俺の手を引いて歩き出す。
椎名の綺麗な後姿を見ながら、一抹の不安を抱かずにはいられなかった。