「寝込んでいたから、お前に謝りに行くこともできなかった」
「そんなことは別に…! それよりもお風邪は大丈夫なのですか?」
「あぁ、熱は数日前に下がったし、メイドたちが看病してくれたからな」
「そうですか。それならいいのですが……。でもまだ病み上がりで、こんなに長い時間お外にいてはまた風邪をぶり返してしまいます。今日はもう屋敷に戻った方が……」
「嫌だ」
思わず口から言葉が零れた。
駄々をこねた俺に、椎名が目線を合わせてうかがってくる。
「千紘さま?」
「嫌。まだ帰りたくない」
「でも、私は心配です。また明日だって会えますから」
「椎名のばか」
俺がテラスの椅子から立ち上って踵を返すと、椎名が慌てて後を追ってきた。
「千紘さま! 待って!」
すぐに捕まった俺は、椎名に後ろからぎゅっと抱きしめられてしまう。
「すみません、怒らないでください」
「椎名の言うとおりに帰るよ、今日は」
「怒って、ますよね? 私は、……仲がこじれたまま、夜を過ごすのはもう嫌です」
弱った声が聞こえて、思わず後ろを振り返ってしまった。
怒っていたはずなのに、椎名のこういうところに自分はすごく弱い。
「千紘さまが大丈夫なようでしたら、もう少し一緒にいましょう。私も一緒にいたいですから。ただ、外だと寒いので、屋敷の中か、庭小屋でもいいですか?」
「……もう何日もキスしてない。椎名は平気なのか? 俺だけか?」
訴えるように椎名を見上げると、椎名の綺麗な喉仏がこくりと音を立てた。
あ、今。椎名から香りが出た。
香りというか、なにかフェロモンのような放出するかのような。
椎名はこっくりと俺に微笑んだ。
「私もキスしたいです。千紘さまをもっと抱きしめたい」
「……うん。じゃあ、屋敷はダメだ。庭小屋に連れていけ」
「はい」
椎名は俺をやすやすと抱き上げると、庭小屋へと慣れた足取りで向かう。
俺は椎名の大きな胸元に頬を預けて、甘えるように頬を擦り付けた。
椎名は庭小屋の鍵を開けて、扉の中に入ると、内側から鍵をガチャリと閉めた。
いつものように俺を木製のテーブルの上に置いて覆いかぶさってくる。
腰に手が添えられて、椎名の顔を近づいてきた。