――数日、療養をすると、身体は完全に回復した。
だるさも感じない。

朝の10時。
普段より健康食な朝食を食べて、外に出た。

安野はいつもより俺にたくさんの服を着せて、外に出した。
まだ心配しているようだったが、俺の譲らない気持ちが伝わったのだろう。


「坊ちゃまは本当に椎名さまがお好きですねぇ」と感心したように呟く安野に、「うん」と正直に返事を返した。

安野は俺の一言に「まぁまぁ」と喜んだ。


椎名はこの時間ならもう仕事をしているはずだ。
今日は椎名の出勤日だし。


庭をぐるりと歩いていくと、いつもながら綺麗な花畑の中に人影が見えた。

向こうも俺の足音に気付いて、振り返った。
手にはホースを持っている。


その椎名が一瞬呆然とした顔をして、ホースを地面に落とした。
水が無造作に地面に広がって行く。


「…椎名?」

「千紘さま……っ」


椎名がおもむろに駆け寄ってきて、俺を思い切り抱きしめた。
ぎゅうっと背中に腕を回されてびっくりする。


怒っていたんじゃないのか?
どうして。
椎名の身体が温かい。怒ってないの? 怒ってたら抱きしめたりしないよね。でも、この前会った時は俺を拒絶していたのに。
頭の中で疑問がぐるぐるとまわる。



「……椎名?」

「申し訳ありません、千紘さま。私の事、呆れましたでしょう。大人気ないって」

「え、なんで」


どういう事なのか分からない。
もしかすると、椎名は俺と会わない数日に色々考えて、いらぬ反省をしてくれていたのだろうか。

それなら申し訳ないことをしたと思う。
兄のせいで無駄に傷つけてしまった。


「椎名。お前は何も悪くない。守ってやれなかった俺が悪いんだ」

「……千紘さま。優しい言葉を掛けてくれるんですね」

「悪かったな、椎名。兄が無礼な言葉を吐いたこと、許してくれ」


背の高い椎名を見上げる。
不安が募る。椎名は俺を抱きしめてくれているけど、内心はどう思っているのかまだ不安でしょうがない。

風邪を引く前、椎名に拒絶された事を思いだす。
嫌われたくない。椎名にだけは絶対……。


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