だけど、1日経って頭を冷やした。
千紘さまは普段ご家族と会えない寂しい毎日を送ってらっしゃるのだ。
たまに会えた帝さまとの再会くらい、私も一緒に喜んで差し上げたい。
そう思った次の日。
千紘さまと帝さまが一緒に玄関から出てきた。
どうやら帝さまはお泊りになったらしい。
そこで聞いてしまったのだ。
一緒にお風呂に入ったり、一緒に眠ったりしたという事を。
自分はそんな事、千紘さまとできないのに。
いつも千紘さまを庭小屋に連れ込み、こっそりと愛をささやく事しかできない自分。
だけど、帝さまは簡単に千紘さまとそれができる立場にあって。
悔しかった。
千紘さまを盗られたような気持ちになった。
たまらなくて、そのあと健気にも近づいてきてくれた千紘さまを邪険に扱ってしまった。
どうしても優しい言葉を掛けてやることができなくて。
いつものように笑顔を向けることができなくて。
千紘さま。
傷付いた声をしていた。
きっととても傷つけた。
何も悪くなどないのに。
自分が狭量なせいで本当に申し訳ない。
次の日になったら謝ろうと思ったのに、次の日、千紘さまは現れなかった。
部屋を見上げても、カーテンがずっと閉められている。
愛想を尽かされたのだろうか。
大人気ない大人ならいらないと、捨てられただろうか。
胸が張り裂けそうに痛んだ。
シクラメンの萎れた花を取っていると、執事が近くを通りかかったので、慌てて声を掛けた。
「あの!」
「あぁ、椎名さま。どうされました?」
「千紘さまは最近どうされていますか?」
私がそう言うと、執事は一瞬口を開きかけて、ためらったように口を閉じた。
なんだろう?
壮年の執事は困ったように眉を下げて、丁寧に頭を下げた。
「申し訳ございません。私は坊ちゃまの事情に詳しくありませんで。失礼致します」
「え、あぁ。はい。失礼致します」
頭を下げながら、眉を寄せた。
あの屋敷に仕える人は、今千紘さましかいない。
それなら、あの屋敷に勤める執事が千紘さまの事情を知らないはずがないのだ。
それなのに、黙っていた。
私に会いたくないと、千紘さまが言ったのだろうか。
……そうかもしれない。
こんなにどうしようもない私は捨てられて当然なのだ。
でも、会いたい。
次にもし会えたなら、謝って、そして、あの小さな体を力いっぱい抱きしめたい。
椎名sideおわり