3日ほどベッドで寝込んで、ようやく復活した。
安野は相変わらず心配そうに俺の世話を焼いている。


「坊ちゃん、やっとお熱下がりましたね。お具合はどうですか」

「うん、もう大丈夫。今日は庭に行ってもいい?」


あの日、もう1度庭に戻る勇気が出なかった。

でもやっぱり。
椎名がいないとつまらない。
寂しくてたまらない。

会えない日はまるで色を失ったようで。
家族には1年会えなくたって平気なのに、椎名には数日会えないだけで世界が終わったような感覚になる。


椎名に嫌われたままじゃ嫌だ。
精一杯謝って、許してもらって、もう1度抱きしめてほしい。


「庭、行きたい」

「ダメですよ、坊ちゃん。今は真冬です。風邪が完全に治ってからにしましょう。お熱は下がりましたけど、顔色はまだ優れないようですので」

「………うん、分かった」

安野には今回甘えてしまった。
言う事は聞いておこう。

安野は優しく俺に微笑みかけて、てきぱきと俺の看病の準備をしている。


「坊ちゃんは最近少し変わられましたね」

「そうか?」

「はい。なんだか以前より人間らしくなったというか。大変失礼な言い方ですが」

「……そっか」

それが本当なら、椎名のおかげだろう。
俺に色んな感情を植え付けたのは、椎名なんだから。



椎名side


「はぁ………」

重い息を吐いた。
庭仕事もいつもよりやる気が出ない。

この時間ならあそこのテラスで、ケーキなどを食べながらお話をしているはずだった。
最近は真冬で寒いため、温かいココアが出ることもあった。

いつものあの場所にあの人はいない。


千紘さまのお兄さま、――帝さまがご帰宅されて、初めて千紘さまが誰かに甘えている姿を見た。

今まで、メイドや執事と接している様子は何度も見ていたけど、あくまでも千紘さまはドライで、あまり感情などを見せようとはしない。
雇い主として優しく接してあげているような雰囲気だった。


だけど、やはり帝さまには心を許していた。
考えてみれば当たり前のことだ。
家族なのだ。いくら千紘さまと一緒にいる時間が短くとも。

なぜそれが自分だけに許されたことだと勘違いしたのか。

千紘さまがあまりにも自然に笑顔を見せるから、呆然としてしまったのだ。
寂しくもあった。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -