お風呂では兄の背中を流してあげた。
なぜか兄も俺の背中を流してくれて、そのあと髪を乾かしてくれて、一緒に眠りについた。
どうやら兄はその日のうちに帰るのをやめたらしい。
気まぐれな人だから特に何も思ったりはしない。
兄は俺を抱えるようにして眠り、俺は少し窮屈に思いながら、椎名へ思いを馳せていた。
早く会いたい。
会って、抱きしめられて、それからキスをして、椎名が好きだと、そう言いたい。
次の日の昼頃になって、兄が帰ると言うから見送りに出た。
兄を送ろうと玄関に向かうと、近くで椎名が庭仕事をしていた。
それをチラリと見ながら、兄を見上げる。
「千紘。今度は正月に家族で会おうな。うまいもの一緒に食べよう」
「うん。学校頑張ってね」
「あぁ、また正月は一緒に風呂に入って、一緒に寝ような」
「うん。また背中流してあげるね」
「千紘、いい子だな。ほら、キスしてくれ」
「ん」
身を屈めてきた兄の肩に手を置いて、頬にちゅっと口付けた。
兄はお返しとばかりに俺のおでこにキスをすると、そのまま車に乗って去って行った。
後ろには執事が立っていたけど、執事に声をかける。
「今から少し椎名とお話するから、先に帰ってて」
「かしこまりました」
執事は丁寧に頭を下げて、家に戻って行く。
それを見送ってから、椎名の元に走った。
すぐ近くにいた椎名は、なぜか俺を振り返ろうとしない。
俺はじれったくなって、後ろから抱き着くと、枝きりハサミを持っていた手が止まった。
「千紘さま、危ないですから。急に抱き着いたりしないでください」
「ごめん。昨日からお前にずっと会いたくて」
「………そうですか。それはありがとうございます」
なんとなくいつもよりそっけない感じがして、胸が痛くなる。
なんでだろう。
やっぱり昨日兄にいじめられたから、それが嫌だったのだろうか。傷付いたのかもしれない。
椎名は繊細な男だ。
落ち込んでいても無理はない。