帝お兄さまは次男だ。
全寮制の高校に入っていて、今高校2年生。
中学から全寮制に入っているせいで、俺が6歳の頃には離れ離れになった。
それまでは随分可愛がってもらっていたから、あの時は泣いて駄々をこねたのを覚えている。
駄々をこねたのはあれ以来一度もない。
兄は俺を地面に下ろすと、じろりと椎名を見た。
椎名は無表情で立ち尽くしている。
「千紘、これは誰だ」
俺が声を掛ける前に、椎名が深々と頭を下げた。
帝お兄さまは本当に綺麗で、俺の自慢の兄だったけど、今では椎名の方が綺麗だと思う。
そんな事は、兄には到底言えないけど。
帝お兄さまは整った顔で、男らしい雰囲気があるけど、椎名は物腰の柔らかさと同じく、顔つきも柔らかいというか、上品な顔立ちで。
美しくて、いつも見とれてしまう。
「初めまして。椎名葵と申します。こちらで庭師をさせて頂いてます」
椎名の顔を見てから、兄を見る。
兄は値踏みするような目で椎名を見て、俺に視線を移した。
「なんでお前が庭師と一緒にいるんだ」
「仲良くなったんだ。家には執事とメイドしかいなくてつまんないし」
「それなら若い男の家庭教師を雇えばいい。なぜ庭師なんかと」
「別に庭師と話したっていいだろ」
「ふん。千紘をこんな寒い中、外に出して風邪でも引いたらどうする」
「申し訳ございません」
椎名が頭を下げた。
俺は見ていられなくなって、兄をきつく見据える。
「お兄さま! 椎名をいじめるなよ。俺が外に出たいってわがまま言ってるんだから」
「だからって、こんな真冬にありえねーだろ」
「お兄さまの分からず屋! 嫌い!」
ぷいっと顔を逸らして、屋敷に駆け込もうと走る。
慌てて兄が追っかけてきて、俺の背中を捕まえて、抱きしめた。
「悪い、悪かった。今日はお土産持ってきたんだ。お前に服を買ってきた。今から着てくれるか?」
機嫌を取ろうとする兄に無言で抱っこされていると、兄の肩越しに椎名が見えた。
椎名は相変わらず無表情で俺をじっと見ていた。
その顔はあくまでも無表情なんだけど、でも俺には見せたことのない温度のない表情で。
玄関が開いて、兄に抱かれながら屋敷に入ると、椎名は見えなくなった。