「お前は花が好きか」
「はい。坊ちゃんと同じように」
「ふん。質問にだけ答えろ」
「失礼しました」
男が困ったように笑う。
そんな顔さえ綺麗で、さながら王子様のようだ。
ぽーっと見つめる。
男の背景にある花はまるで引き立て役のように見える。
花と綺麗な男。
見惚れるほど美しい光景だ。
「あ、お前か」
「え?」
「メイドたちが庭の王子様って呼んでるのは」
「庭の王子様、ですか」
「噂されてるぞ、お前」
立ち上がって、笑いながら見下ろしてやると、男は困惑したような顔をした。
メイドたちが噂しているのを聞いたことがある。
まぁこれだけ綺麗な顔をしていれば話題にも上るだろう。
「他に、」
「なに」
「他に名前を知りたい花はございますか?」
男を見ると同じように立ち上がり、花を見ていた。
斜め上にある男の顔を見上げると、とても愛おしそうに花を見ていて、それだけでこの男の事が少し好きになった。
「んー……」
本当は花の事を聞くのは恥ずかしい。
花が趣味だなんていうと、家族やメイドたちには笑われそうだ。
でも、この男は全くそんな見方はしないようだ。
俺に純粋な視線を向けてきたから、慌てて庭を見渡した。
「あ、あの、それの花。ピンクとか紫の」
「これはコスモスです。秋の1番有名な花で、秋の桜と書くんですよ」
「へぇ。綺麗だな」
秋桜でコスモス。
漢字も美しい。
椎名の答えに満足して頷くと、椎名は俺の顔を見ながら微笑んでいた。