何歳かは分からないけど、まだ大人になってすぐのような、そんな感じ。
見知らぬ男。
怖くなってしゃがんだまま、一歩後ずさった。
「誰」
俺が警戒心をあらわにして声を出すと、目の前の男は俺に目を合わせるようにしゃがみこんで、にっこり笑った。
「ここの庭師をしています、椎名葵(しいなあおい)です。初めまして、千紘(ちひろ)様」
「椎名……。庭師か」
「はい、以前から坊ちゃんがこちらの庭で花の名前をお調べになっているのは知っていたのですが、お声を掛けるタイミングがありませんで。ご挨拶が遅れてしまいました」
「別にかまわない。椎名といえば、うちが代々庭を任せていると聞くが、前はここに別の人がいただろう」
「はい。私の父です。父が腰を痛めているため、今年から私がここを任されることになりまして」
「ふうん」
あれはこいつの父だったか。
前に庭を手入れしていた男は、寡黙で、俺がいた時も話しかけてきたことすらないが、花を大事にしていた。そんな目をしていた。
俺が庭をうろうろしていても、じろじろ見てくることもなく、なんていうか気が楽な存在だった。
それの息子か。
しゃがみこんだその男の顔を改めて見てみる。
世の中の顔の美醜はよく分からないけど、この男は素晴らしく顔が整っていることだけは分かった。
庭師の格好をしているが、それがもったいなく思う。
足袋のようなブーツにズボンをブーツインしている、独特の庭師の格好は、お世辞にも素敵だとは言い難いけれど、この男はそんなものさえ着こなしている。
背も高く、すらっとした体型は細身ながら、肩はしっかりしている。
顔のパーツも美しく、世界で1番美しいと思っていた兄たちを越えて、なお綺麗だ。
艶やかな黒髪は流れるように整えられていて、ただの庭師にしておくのはもったいない。
まぁ西園寺家専属の庭師だというとすごいことなのだろうけど、この人はそうじゃなくてもっと、光を浴びる仕事の方が似合う。