「……私もです。千紘さまにこんなことを言うのは大変失礼なのですが、自分がまさかこんなに歳の離れた人を好きになるなんて思ってもみませんでした。私は千紘さまが思っている以上にもっとあなたが好きです」
「そうか」
照れくさくなって、顔を伏せた。
だけど、椎名の真剣な思いは、俺の胸を温かくしていく。
こんな言葉、誰も言ってくれなかった。
両親は俺を特別と思わなかったし、2人の兄たちは俺を可愛がったけれど、彼らだって同じだ。
椎名だけ。
椎名だけが俺を特別なものだと思ってくれる。
「……お前は女も好きになれるもんな。俺は初めて好きになったのがお前だからよく分からないけど。俺を選んでくれて嬉しい」
「ずっとおそばに置いて下さい。きっと裏切るようなことはありませんから」
椎名は俺を抱きしめながら、優しく俺の後頭部を撫でた。
髪の間に指が通る。
それが心地よくて、椎名の肩に顔をうずめた。
「椎名。俺の椎名」
「はい、なんですか」
椎名は俺の独占欲もなんなく受け止めてくれる。
もっと困らせてみたくなる。子供みたいだな。そんな風に思って、まだ自分は十分子供だったと思い出した。
ここで泣きだしたら、椎名はどんなに慌てるのだろう。
その様子を想像してみる。愉快な気分になった。
「千紘さま、今日はありがとうございます。私、先ほどの件、黙っていましたが、千紘さまが怒ってくれたことが、本当に嬉しくて。……好きです。心から、愛しく思っています」
「……お前は優しいやつだな」
こんなにも、俺の事を優しく抱きしめた人はいただろうか。
こんなにも、俺に好きだと伝えてくれた人はいただろうか。
肉親にも勝る愛情を、椎名からもらっている。
胸のあたりがぎゅうっと痛いくらいに疼く。
でもさっき宮村とのやり取りを見ていた時の嫌な感じではない。
もっと、魂が痺れるような、幸せな震え。