「嫌だ!」
「千紘、さま?」
椎名を睨みつけるように言う。
椎名はびっくりしながらも、宮村を避けて俺の元に来ると、俺の目の前でしゃがみこんだ。
手をぎゅっと握られる。
ホッとする。
それだけで許していいかと思える。
「千紘さま、どうされましたか」
「嫌なんだ。分かれ!」
宮村がいる手前、はっきりとした言葉を口にするわけにはいかないからもどかしい。
でも言わないと気が済まなかった。
椎名は俺のものだ。
俺だけが愛していいもので、他の女に愛想を振りまくのは許せない。
「千紘さま、申し訳ありませんでした」
「お前が悪いぞ」
「はい。反省しております」
どうやら伝わったらしい。
椎名は申し訳なさそうに眉を下げながらも、俺に触れたそうに手を1度あげて、ゆっくりとおろした。
俺は宮村をチラリと見る。
どういう展開か分かっていないようで、頭の上にはてなが浮かんでいるのが目に見えるようだった。
「宮村、ここでの用は済んだか?」
「え、あ、……はい」
「なら、気を付けて帰れ。警備の者にタクシーを手配してもらうといい」
「ありがとうございます。坊ちゃま、椎名さま、失礼します」
宮村は空気は読めるらしい。
俺の帰れの声で、慌てて別れの挨拶を口にした。
椎名は立ち上がって、宮村に丁寧に頭を下げた。
「お気をつけて」
椎名の顔はもう笑ってはいなかった。
執事のようにただただ丁寧に頭を下げていた。
宮村が去ると、しんと静寂が2人の間に流れた。
また椎名は俺の元にしゃがみこんで、許しを請う。
その顔はいつもより不安げだ。
俺の機嫌を損ねたと心配している。
その通りだ。俺は機嫌をすこぶる損ねている。